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Credit:Retinoic acid breakdown is required for proximodistal positional identity during axolotl limb regeneration
biology

ニキビ薬成分が手足再生メカニズムを制御していたと判明 (3/3)

2025.06.20 21:00:35 Friday

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ヒトの細胞に再生の声を届けられるか

ヒトの細胞に再生の声を届けられるか
ヒトの細胞に再生の声を届けられるか / Credit:Canva

今回明らかになったレチノイン酸による「再生の指令シグナル」の発見は、失われた手足の再生という再生医療の究極の目標に一歩近づく重要な知見です。

モナハン教授は「再生の合図を解明できたことは、人間への応用に向けた大きな前進です」と述べています。

人間にもレチノイン酸を感知する細胞(線維芽細胞など)は存在しますが、私たちの場合、腕を怪我するとそれらの細胞はコラーゲンを沈着させて傷痕を作る方向に進んでしまい、サンショウウオのように再生モードに入らないのが現状です。

言い換えれば、信号そのもの(レチノイン酸など)は人間の体内にも流れていても、細胞がそれを「聞いていない」ために再生が起こらないと考えられています。

では人の細胞にサンショウウオのようにこの信号を“聞かせる”ことはできるのでしょうか?

モナハン教授は、ポイントは「細胞がレチノイン酸などの再生シグナルを再び感知するよう、細胞内の遺伝子プログラムを再起動させること」だと言います。

アホロートルでは傷を負った細胞が「脱分化」といって一度初期状態に戻り、再び胚(胎児)のような状態で手足を作り直します。

一方、人の細胞は傷ついても脱分化せず、そのまま修復・瘢痕化に進むため再生できません。

研究チームは、適切な遺伝子プログラムのオン・オフを制御できれば、外部遺伝子を導入せずに部分的な再生を誘導できる可能性があると述べています。

モナハン教授らの発見は、まさにそのスイッチの一端を示すものです。

「人の線維芽細胞にもこの再生の合図(レチノイン酸)を聞かせることができれば、あとの作業は細胞自身がやってくれるはずです。彼ら(線維芽細胞)はサンショウウオと同じように発生の過程で一度手足を作っているのですから」とモナハン教授は説明しています。

今回見つかった酵素CYP26B1やShox遺伝子といった要素は、人間の細胞に眠る「再生プログラム」を起こすカギになるかもしれません。

もっとも、人が実際に手足を再生できるようになるまでには課題も山積です。

再生の合図は解明されつつありますが、それを受け取る細胞側の仕組みや、レチノイン酸が細胞内でターゲットとする遺伝子群の特定など、今後さらに深い理解が必要です。

また、人の組織でサンショウウオのような脱分化・再生を誘導するには、安全かつ精密な遺伝子制御技術(例えばCRISPRなど)の進歩も欠かせないでしょう。

ヒトの四肢再生は遠い未来かもしれませんが、生物が本来持つ再生能力の片鱗が人間にも残っているのであれば、将来的にそれを呼び覚ますことも不可能ではないかもしれません。

一方で、本研究は創傷治癒の分野にも新たな視点を提供します。

レチノイン酸による細胞への働きかけを応用すれば、傷を瘢痕(はんこん)化させずにきれいに治す治療や、指先程度の部分的な再生は比較的早い段階で実現する可能性もあります。

「最初に手足を形作った生物プログラムを再び動かすことができれば、指一本はおろか手のような大きな部分でも再生できる可能性があります」とモナハン教授は将来への展望を語っています。

再生生物学の地道な研究が、いつの日か人類の「失われた再生能力」を目覚めさせる日が来るかもしれません。

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