クマの一撃をかわす最終防衛、“うつ伏せシールド”の科学

研究グループは秋田県内で令和5年度(2023年4月~2024年3月)にクマに遭遇して負傷し、県内の医療機関を受診した全ての人(70人)を対象にデータを解析しました。
秋田県が保有する「クマによる人身事故情報」と、各医療機関のカルテ情報を照合し、被害者がどのような状況でどんな対応を取り、結果としてどの部位にどれほどのケガを負ったのかを詳細に調べたのです。
その結果、この70人のうち、ケガの程度が「重症」に分類されたのは23人(約33%)でした。
ここで言う「重症」とは、骨折が複数本に及ぶ多発外傷、全身麻酔が必要なほど深い傷、指や手足の切断を伴う負傷などの深刻なケースを指します。
実際、この中にはクマに噛まれたり引っかかれたりして指や四肢を失った例や、手術を要する深い傷を負った例も含まれていました。
一方で、被害者70人のうちクマに襲われた際にとっさに「うつ伏せの防御姿勢」を取ることができた人は7人(全体の10%)に留まりました。
注目すべきことに、この7人には重症者が一人もいないという明確な差が確認された点です。
防御姿勢を取れなかった残り63人では23人が重症になったのに対し、防御姿勢を取れた7人では重症者ゼロだったということです。
言い換えれば、防御姿勢を取れた場合と取れなかった場合で、重症を負うリスクに明確な開きがあったことになります。
さらに分析から、クマ遭遇事故のおよそ6割(約60%)は「里地」や「居住地」など人間の生活圏内、つまり家の近くや農作業場など身近な場所で発生していたことも分かりました。
クマ被害というと山奥で登山者が襲われるイメージがあるかもしれません。
しかし実際には、庭先での作業や近所の畑仕事など、日常生活の中でもクマと鉢合わせする可能性があります。
2023年の秋田県ではドングリなどの餌不足や個体数増加などが背景に指摘されており、人里への出没が相次いだとされています。
「普通に生活していてもクマと鉢合わせする可能性がある」という現実は、被害予防策を地域社会で徹底する必要性を物語っています。