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AIが1000以上の「あやしい科学雑誌」を検出

2025.09.01 21:00:36 Monday

アメリカのコロラド大学ボルダー校(CU Boulder)で行われた最新の研究によって、近年急速に増え続けている「略奪的ジャーナル(ハゲタカジャーナル)」の問題に対し、AI(人工知能)を使った新しい解決方法が示されました。

「略奪的ジャーナル」とは、高額な掲載料を要求する一方で、論文の内容を専門家が十分にチェック(査読)せず、質の低い論文でも掲載してしまう学術誌のことを指します。

このような雑誌の増加は科学の信頼性を脅かす大きな問題になっていますが、人手でひとつひとつ確認する作業には限界がありました。

そこで今回、研究チームは雑誌のウェブサイトの構成や論文の引用パターンをAIに学習させ約15,000誌の中から1000誌以上もの「あやしい雑誌」を高い精度で効率的に見つけ出すことに成功したのです。

果たして、AIの活躍によって「略奪的ジャーナル」の脅威から科学を守ることができるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年8月27日に『Science Advances』にて発表されました。

Estimating the predictability of questionable open-access journals https://doi.org/10.1126/sciadv.adt2792

増え続ける「あやしい科学雑誌」にどう対応するか?

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インターネットが広く普及したことで、学術誌と呼ばれる専門的な研究成果の発表の場も大きく変わりました。

かつては高価な本や雑誌を手に入れないと読むことができなかった最先端の研究も、今では「オープンアクセス誌」を通じて、世界中どこにいても無料で読めるようになりました。

この「オープンアクセス」は、多くの研究者たちが「知識はみんなのもの」という理想を叶えるために進めてきた運動で、途上国や研究費が限られている環境でも最新の知見にアクセスできる点で、学術の未来に大きな希望をもたらしてきました。

ところが、この“誰でも読める”というオープンな仕組みは、科学の世界に新しい落とし穴も作りました。

実際、オープンアクセス誌が増えるのと同じスピードで、あやしい雑誌――つまり本来の目的をゆがめて、「掲載料だけを集めようとする」雑誌も急増してしまったのです。

こうした雑誌は、メールやウェブサイトなどを通じて「すぐに掲載しますよ」と研究者に近づき、時には数万円から十数万円といった高額な掲載料を請求します。

一方で、本来とても大切な「査読」(専門家が論文の内容を詳しくチェックする仕組み)は名ばかりで、形だけの簡単な確認だけで済ませてしまう例が後を絶ちません。

このような悪質な雑誌は「略奪的ジャーナル」や「ハゲタカジャーナル」と呼ばれています。

研究者の世界では「成果を出さなければ評価されない」というプレッシャーが年々高まっています。

とくに大学院生や若い研究者は、論文の発表歴がキャリアの出発点になるため、時には少しでも早く論文を“どこか”に出したいと焦ってしまうこともあります。

略奪的ジャーナルは、こうした研究者たちの弱みに巧みに付け込みます。

特に、アジアやアフリカなどの新興国では、大学や研究機関のサポートが十分でない場合も多く、経験の浅い研究者や研究費に余裕のない人たちが狙われやすいことも世界中の調査で明らかになってきました。

略奪的ジャーナルの存在は、学術の健全性を根本から揺るがす問題です。

なぜなら、質のチェックがされていない論文が増えれば増えるほど、本当に信頼できる研究成果と、そうでないものがごちゃ混ぜになってしまうからです。

たとえば、医療や気候変動など、私たちの暮らしや社会の判断に関わる分野で“質の悪い論文”が参考にされてしまえば、間違った治療法や政策が広まる危険もあります。

科学の世界で「みんなが信じる根拠」となる論文の質が保証されないまま膨れ上がってしまうと、長い時間をかけて築き上げてきた“科学の信用”そのものが崩れかねません。

こうした問題を解決するために、世界の学術界はさまざまな方法を試してきました。

たとえば、2000年代からはDOAJ(ディーオーエージェー:Directory of Open Access Journals)という国際的なボランティア組織が登場しました。

この団体は、「信頼できるオープンアクセス誌」を登録リストで公開し、その基準に合格した雑誌だけを掲載しています。

DOAJの審査は「編集委員会の顔ぶれや連絡先がきちんと明記されているか」「論文の査読方法や倫理方針が公開されているか」といった明確なチェックリストに基づいています。

しかし実際には、このような審査を人力だけで行うのは限界があり、世界中で増え続ける雑誌の動きに追いつくのは非常に困難です。

特に、巧妙に姿を変えて現れる新しい怪しい雑誌や、見かけだけは立派に作られたウェブサイトを持つ雑誌を見分けるのは至難の業です。

このような現状を受けて、今回の研究チームが注目したのが「AI(人工知能)」の活用です。

AIとは、人間のように“経験から学び、パターンを見つけて判断する”ことができるコンピューター技術のことです。

研究チームは、DOAJが採用しているチェックリストや、ウェブサイトの構造、論文の引用パターンなど多様な特徴をAIに覚えさせ、雑誌ごとの「あやしさ」の兆候を自動で分析できるシステムを目指しました。

ある意味でAIは雑誌の性格を学ぶことで「あやしさ」を見抜くのです。

さらに、今回のAIは「なぜ怪しいと判断したのか」を人間があとから説明できるように設計されているのが大きな特徴です。

たとえば「編集委員の名前や経歴が公開されていない」「同じ著者の論文ばかりが頻繁に引用されている」「雑誌のウェブサイトの作りが他と違って不自然」といった具体的な理由を、AIがピックアップして説明できるようになっています。

これによって、ただ単に結果だけが“ブラックボックス”のように出てくるAIではなく、人間の専門家が後からしっかり根拠をたどれる透明性の高い仕組みになりました。

従来はモグラ叩きのように個別対応しかできなかった雑誌のチェック作業も、AIの力を借りることで世界中の雑誌を一気にふるいにかけ、怪しいものを効率よくリストアップすることが可能になります。

次ページAIはどうやって『怪しい雑誌』を見破った?

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