細胞死を待たずに「不要細胞」を食べさせる新タンパク質を開発
私たちの体の中では、毎日100億個以上もの細胞が役目を終え、“不要細胞”となっています。
これらの細胞は、通常「アポトーシス(細胞死)」を起こし、その過程で細胞の表面に「ホスファチジルセリン」という目印を出します。
この目印は“eat-me(食べて)”シグナルと呼ばれ、体の中の貪食細胞(マクロファージなど)に「もう用済みだから片付けて」と伝える働きをします。
貪食細胞はこのシグナルを見つけると、不要細胞をすみやかに飲み込んで処理し、体内環境を清潔に保ちます。
ところが、加齢や疾患でこの仕組みがうまく働かなくなると、不要な細胞が体内に残り、がんや自己免疫疾患などさまざまな問題の原因となります。
これまでこうした「消えない不要細胞」に対して細胞死を誘導するために、化学物質や抗体、細胞を用いた治療が行われてきました。
しかし、がん細胞や自己免疫疾患の原因となる細胞の中には、細胞死をなかなか起こさないタイプも多く、既存の治療法だけでは十分に排除しきれないという大きな課題が残されていました。
そこで京都大学アイセムスの研究グループは、「細胞死を待たずに、不要な細胞を直接片付けることができる新しい仕組み」を開発しようと考えました。
そのカギとなったのが、死んだ細胞の“eat-me”シグナルを認識するタンパク質「Protein S(プロテインS)」です。
新しく開発された「クランチ」は、このProtein Sの「ホスファチジルセリンを認識する部分」を、標的細胞だけが持つ目印を認識できる部位に置き換えて設計された合成タンパク質です。
さらに、貪食細胞と結合しやすくしたり、貪食シグナルを活性化する仕組みも導入されています。
つまりクランチは、「不要な細胞」と「貪食細胞」を物理的につなぎ、不要細胞を片付けるよう貪食細胞に指示を出す橋渡し役となるのです。
これにより、細胞死を経ずとも不要細胞を体内から除去できます。
そして研究チームは、このクランチの性能を確かめるため、マウス実験を行いました。