ウイルスが体内で進化、オミクロンに近づいていた
この長期感染の中で、ウイルスは患者の体内で独自に変化を重ねていきました。
ゲノム解析の結果、ウイルスは感染期間中に135カ所もの変異を蓄積。
その中には、後に「オミクロン株」の特徴となるスパイクタンパク質の変異(10カ所)が含まれていました。
しかもその9カ所は、オミクロン株が世界で初めて検出される以前から、患者体内ですでに出現していたのです。
こうした現象は「収斂進化」と呼ばれ、異なる環境で同じような変化が偶然起きることを意味します。
つまり、世界中の多くの人がオミクロン株で経験したのとよく似た変異が、個人の体内でも独自に発生しうることが示されました。
興味深いのは、この患者から検出されたウイルスが、周囲の人々に感染拡大することはなかった点です。
チームが世界中のコロナウイルスのゲノムデータベースを調査した結果、この男性の体内で進化したウイルスが他者に広がった痕跡は見つかりませんでした。
これは、長期感染で体内適応が進みすぎたウイルスは「感染力」が逆に低下する場合もあることを示唆しています。
一方で、こうした長期感染が続くことで、社会全体に新たな変異株が生まれるリスクも否定できません。
論文では、「免疫力の弱い人への治療や医療アクセスの拡充、長期感染例のモニタリングこそが新たな脅威の芽を摘むために重要だ」と強調されています。