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psychology

数学者の「ひらめき」は2分前から前兆が始まっていた (2/3)

2025.11.14 19:00:29 Friday

前ページ「ひらめき」は本当に突然訪れるものなのか?

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ひらめきの予兆は「2分前」から始まっていた

ひらめきの予兆は「2分前」から始まっていた
ひらめきの予兆は「2分前」から始まっていた / Credit:An information-theoretic foreshadowing of mathematicians’ sudden insights

「ひらめき」の前に「前兆」があるのか?

謎を解明するため研究者たちは数学者たちの「発想の瞬間を現場で捕まえる」という大胆な方法をとりました。

対象となったのは博士課程レベルの数学者6人。

彼らに、全米屈指の難問として知られるプトナム数学コンテスト(Putnam Competition)の課題を解いてもらいました。

用意されたのは黒板とチョークだけ。

まさに数学者たちが日常で思考を深める姿そのものです。

研究者たちは、黒板の前で彼らが問題に取り組む様子をカメラで撮影しました。

黒板に式を書く、消す、指で差す、視線を動かす――そのすべてを、時間とともに細かく記録していきます。

そして数学者たちの「わかった!」「できた!」といった声や仕草が出た瞬間を手がかりに、「ひらめき」が起きたタイミングを特定したのです。

この記録作業は非常に地道なものでしたが、結果として4,653回に及ぶ「黒板上の動き」と「ひらめきのタイミング」が得られました。

この膨大なデータを分析したところ、数学者が「わかった!」と表現する前に、ある特徴的な変化が現れることが判明します。

黒板の上で、動きのリズムが急に乱れ始めたのです。

それまでは、特定の図形や式の間を行き来するような決まったパターンで考えていた数学者が、急に別の場所に手を伸ばしたり、関係のなさそうな図を指さしたりする――そんな「動きの揺らぎ」が観察されました。

ある数学者の例では、問題の初めから「線分」と「数のリスト」を行き来していたのですが、解決直前の30秒前に突然、黒板の反対側に描かれた三角形に注目したのです。

それまで一度も関連づけていなかった要素を、ひらめきの直前に結びつけた瞬間でした。

その行動は偶然のようでありながら、まるでの中で回路がつながる瞬間を外側から“可視化した”かのようだったと報告されています。

このようなひらめき前の行動パターンの不安定化は参加した6人全員にみられました。

統計的な分析では、ひらめき前後の数分間における動きの予測のしづらさが、普段より約15%(絶対差+0.16)も増加していたのです。

しかもその乱れは、ひらめきが起こるおよそ2分前から少しずつ始まり、ピークに達した直後に一気に落ち着くという流れを伴っていました。

この結果は偶然ではなく、数学的なモデルでも再現され「理解が不安定になると行動が予測しづらくなる」という関係を確認しています。

つまり、頭の中で考えが揺れ動くほど、外に表れる動作も乱れやすくなるということです。

しかしここで疑問が湧きます。

なぜ「ひらめき」の直前に行動の乱れが起きるのでしょうか?

研究チームは、この疑問に対して2つの可能性を挙げています。

1つ目の可能性は、脳の中で新しいアイデアが生まれ始めているという考え方です。

頭の中でバラバラだった情報や知識が、まるでパズルのピースのように少しずつ「つながり始める」と、それに伴って外側の行動も自然に変化すると考えるのです。

これは、黒板の前で数学者が急に今まで注目しなかった場所を指したり、書いたりする現象とよく一致します。

脳の中の新しい回路が静かに繋がり出し、その内側の変化が外側の行動にも影響を与えているというイメージです。

2つ目の可能性は、意識的な「行き詰まりを打開する行動」が偶然に新しい発見をもたらした、という解釈です。

数学者は、問題に取り組んでいる途中で行き詰まりを感じると、意識的に視点を変えたり、わざと普段と異なる動きをしたりすることがあります。

これはちょうど、探していた答えが見つからないときに、意識的に目線や考え方を変えてヒントを探すことに似ています。

その過程で、偶然新しい繋がりを見つけ、「ひらめき」が生まれるのかもしれません。

研究者自身は、この2つのシナリオのどちらが正しいのか、あるいは両方が同時に起こっているのかをはっきりとは結論づけていません。

しかし、今回の研究で明らかになった重要なポイントは、「ひらめき」の直前には必ずと言っていいほど『動きの揺らぎ』という共通点があった、ということです。

数学者がアイデアをひらめくまでの数分間に、脳や体が小さな不安定さを経て、新しい発見につながる準備をしているようだ、と研究チームは考えています。

次ページひらめき鍵は「直前の揺らぎ」にあり

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