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mathematics

知能のない個体が集団では“賢く見える”理由を数学的に解明 (3/3)

2025.12.07 12:00:41 Sunday

前ページ細菌や細胞の振る舞いはAIの強化学習に似ている

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アリの社会からSNSまで、集団現象には似た構造が隠れている?

論文が厳密に扱っているのは、あくまで「走化性(chemotaxis)をもつ細胞」が、環境に残した化学物質を通して情報を共有し、集団として最適な行動に近づいていく仕組みについてのみです。

そのため、その他の世の中でみられる様々な集団現象について、論文は特に論じてはいませんが、この研究で示された数学的な構造は、ほかの集団現象にもよく似たかたちで顔を出しているように見えます。

たとえば、アリの行動は古くから「スティグマーギー(stigmergy)」と呼ばれる概念で説明されてきました。

アリは餌を見つけたとき互いに直接教えたり「会議」をするわけではありませんが、代わりに通り道にフェロモンという化学物質を残していきます。多くのアリが通った道ほどフェロモンが濃くなり、結果として「よく使われるルート」が強調されます。

後から来たアリは、その濃いフェロモンに従って進むだけでよく、その繰り返しによって、集団全体が餌につながる最適なルートに収束していきます。

ここでも、個々のアリはほとんど何も“考えて”いませんが、通り道に残されたフェロモンが「外部のメモリ」として働き、集団としては高度な社会的行動をとっているように見えます。

同じような構造は、人間の集団行動のいくつかにも、部分的な類似として見いだせるかもしれません。

私たちは本来、自分の頭の中に豊富な記憶や判断力を持っていますが、現実の場面では「他人の行動」という“痕跡”を強く手がかりにします

評判の悪い映画はガラガラになり、口コミ評価の高いレストランには行列ができます。

個々人は「とりあえず人が多い店を選ぶ」「レビューの星が高い作品を優先する」といった単純なルールで動いているだけでも、その積み重ねが「人気店」「人気コンテンツ」という形で環境側に情報を蓄積していきます。

その結果、多くの人が似たような作品や店に集中し、あたかも集団全体が何かを“選択している”かのように見える状況が生まれます。

インターネットやSNSでは、この構造がさらに極端な形で表れているかもしれません。

「いいね」やリツイートの数は、細胞にとっての化学物質の濃度のように、情報空間の中に“勾配”を作ります。

人々は、自分で一から全てを評価するというより、「反響の大きさ」「バズっているかどうか」を手がかりにして情報に近づいていきます

その結果、多くの人が同じ話題に集中し、似たような意見や表現に収束していくことがあります。

ネット炎上のような現象も、一人ひとりが独立に熟考しているというより、「すでに強く反応されている投稿」に反応が雪だるま式に積み上がり、ある方向に偏った集団行動として現れている可能性があります。

もちろん、これらのアリの行動や人間社会、SNS上のダイナミクスについて、今回の論文が直接データを使って指摘しているわけではありません。

論文が厳密に扱っているのは、あくまで走化性を持つ細胞のモデルとその数学的構造です。

しかし、「個体は単純でも、環境に残された痕跡が外部メモリとなり、集団が勾配に従って動くことで“知能のようなふるまい”が現れる」という枠組みは、これらの現象にも共通する抽象的なパターンとして捉えられるかもしれません。

この研究のように、現象を抽象化して示される数学的な構造は、様々なものに応用して考えることができる非常に興味深いものになるかもしれません。

細胞の動き方を数理で説明することで、知能というものが必ずしも脳だけに宿るわけではないことが見えてきます。

個体そのものが賢い必要はなく、個体と環境が情報をやり取りすることで、集団として複雑なふるまいが成り立つという視点は、生物学だけでなく、初期生命の進化を考える上でも重要です。

人工的な群ロボットの制御や、集団が自己組織化する仕組みの理解にも応用できる可能性があり、幅広い分野に新しい刺激を与える研究だといえます。

今後は、この理論を実際の細胞で検証する実験が求められています。

さらに、複数の種類の化学物質が入り混じる体内環境や、血流や細胞間液のような流れの影響を含めたモデルに拡張することで、より現実に近い理解が進むと考えられます。

群衆行動や人工社会といった大規模な集団現象との関係を理論的に探ることも考えられますが、そうした応用はまだ可能性を示す段階に留まっています。

細胞たちのふるまいを通じて、私たちは「知能とは何か」という古くて大きな問いを改めて考えることになります。

ひとつひとつは何も考えていないのに、集団になると賢く見える。

その仕組みを数学で解きほぐした今回の研究は、私たち自身が持つ“知性”の見え方にも新しい光を当てているように思われます。

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知能のない個体が集団では“賢く見える”理由を数学的に解明 (3/3)のコメント

ななし

集団になると無能な人も活躍できる。
匂いの一つとして。
集団になると、有能さが活かしきれない。
ただの、匂いの一つにしかなれない。
でも、有能な人の何かを、匂いより、影響力を強く残せれば、有能さを活かせる?

ゲスト

ここで議論されてるのは無能有能についてではなく、シンプルな入力と出力の応答の集合体がが複雑(に見える)課題をクリアできると言うこと
個々のエージェントに活躍とか影響力とかいう概念は存在しない
ただ共通の信号があるだけ

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