視線トレーニングで反応速度が「47ミリ秒」短縮
2つめの実験では、FPSにおけるもうひとつの重要な能力である視線のコントロールに焦点が当てられました。
FPSでは視線を大きく動かすとわずかな遅れが生じるため、上級者ほど視線を中央に保ち、周辺視野でターゲットを捉える傾向があります。
そのため研究チームは、視線が中央から外れた瞬間に警告音が鳴る仕組みを使い、余計な目の動きを減らすトレーニング方法を試しました。
この実験にも経験豊富な男性ゲーマー21名が参加し、アイカメラで視線の位置を追跡されました。
視線が中央から外れると「ビッ」と警告音が鳴り、中央に戻れば音が消えるというシンプルな仕組みです。
これにより参加者は、視線を必要以上に動かさない戦略を自然に学習していきました。
比較用のグループは警告音を受けず、視線に関するフィードバックは与えられていませんでした。
トレーニング後にAimLabで同じ射撃タスクを行ったところ、視線トレーニングを受けた群は中央値で47.2ミリ秒の反応速度短縮を示し、脳波の実験よりもさらに大きな改善が確認されました。
一方、比較用のグループは13.9ミリ秒ほど短縮したものの、この変化は統計的に有意ではありませんでした。
視線データの分析では、実験群の視線の水平・垂直方向の分布が大きく狭まり、視線の揺れが少なくなっていることが示されました。
つまり参加者は、視線を中央に安定させながら周辺視で情報を捉える技術を短時間で身につけたことになります。
そしてこの実験でも、命中率の変化はごく小さく、統計的に精度の有意な低下は見られませんでした。
FPSでは144Hzモニター(1秒間に144回画面が更新される)がよく使われており、1フレームは約7ミリ秒です。
今回の反応速度の改善量である30〜47ミリ秒はおよそ4〜7フレームの差に相当し、この差は実戦の撃ち合いで勝敗を左右する大きなアドバンテージになります。
もちろん、この研究にはいくつかの限界もあります。
効果は単回のトレーニングによるもので、長期的に持続するかはまだ分かっていません。
また実験はFPSの要素に特化しており、他のジャンルに応用できるかも検証が必要です。
さらにサンプルサイズも大きくはなく、今後の大規模研究が待たれます。
それでも研究チームはすでに長期効果の検証実験を進めており、注意力トレーニングと視線トレーニングの併用やプロeスポーツチームへの導入も視野に入れています。
脳と視線を「可視化して鍛える」というアプローチは、eスポーツに新しい進化をもたらす可能性があるのです。


























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