人間の近くに住むことでクマは小さくなり攻撃性も低下した――DNAが示した進化の痕跡
人間の近くに住むことでクマは小さくなり攻撃性も低下した――DNAが示した進化の痕跡 / Credit:File:Orso bruno marsicano.jpg
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人間の近くに住むことでクマは小さくなり攻撃性も低下した――DNAが示した進化の痕跡 (2/3)

2026.01.05 21:00:44 Monday

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DNAから見えた「温厚化」の手がかり

DNAから見えた「温厚化」の手がかり
DNAから見えた「温厚化」の手がかり / Credit:Canva

研究チームはアペニンヒグマ12個体を含む計20個体のDNAを新たに解析し、そのゲノム(全遺伝情報)を他地域のヒグマと詳細に比較しました。

まず明らかになったのは、アペニンヒグマの遺伝的な多様性が他のヒグマと比べて極端に低いことでした。

この集団では近親交配(血縁どうしの交配)が長く続いた結果、遺伝子のバリエーションが乏しくなっていたのです。

さらに、研究チームは「遺伝的負荷(病気や不利な性質につながる変異の持ち方)」も調べました。

その結果、アペニンヒグマは、他のヒグマよりも「実際に効いていそうな有害変異」を多く抱えている可能性が高いことが示唆されました。

一見すると、「絶滅に向かって転がっているだけ」のようにも見えます。

しかし解析はそこで終わりません。

研究者たちは、ゲノム全体をスキャンして、「どの場所に強い自然選択の跡があるか」を調べました。

ざっくり言えば、「他のヒグマとは明らかに違う変化が積み重なっている遺伝子」を探したのです。

その結果、行動や神経の働きに関係が深いとされる遺伝子の周りに、特に強い信号が集まっていることが示唆されました。

なかでもDCCやSLC13A5(どちらも遺伝子の名前)といった、他の動物で攻撃性の低下と関係が示唆されている遺伝子の近くに、「アペニンヒグマだけで目立つ変化」が多く見つかりました。

興味深いのは、これらの変化の多くが、タンパク質の設計図そのものではなく、「非コード領域(タンパク質を作らないがスイッチとして働く部分)」に集中していたことです。

これはたとえるなら、同じ楽譜でも演奏のしかたで曲の雰囲気が変わるように、「読み取り方の微調整」で行動のクセが変わっているのかもしれません。

(※計算による予測では、「スプライシング(読み取りの切り貼り)のときに働く因子がくっつく場所」が変わる可能性も示されました。)

コラム:アペニンヒグマは人にケガをさせた記録がない

「アペニンヒグマは、人にケガをさせた記録がないらしい」──クマ被害ニュースが絶えない日本から見ると、にわかには信じがたい話です。しかしイタリアの研究機関や保全団体の発信を追うと、「少なくともアブルッツォ地方では、人がクマに襲われてケガをしたり命を落とした記録はない」と明言しているものがいくつも見つかります。たとえばイタリア国立研究委員会(CNR)の自然保護系の研究所は「地元のクマによる人身被害は記録されていない」と説明していますし、地元の自然保護サイトも「アペニンでは、人が攻撃されたり負傷した事例は記録されていない」と繰り返しています。

だからといって、「イタリアのクマは完全に無害」と勘違いするのは危険です。地元では、電気柵やクマ対策ゴミ箱、「ベアスマート・タウン(クマと共存できる町)」の取り組みなど、かなり本気の対策を続けて初めて、いまの“人身被害ゼロ”状態を保っているのです。もう一つ大きいのは「数」の違いです。アペニンヒグマは世界でおよそ50〜60頭とされ、そもそも個体数がきわめて少ないうえに、生息域も国立公園とその周辺にかなり限られています。一方、日本のツキノワグマやヒグマは、広い範囲に何千頭単位で分布していて、人が暮らすエリアと山との境界もはるかに長く、接触のチャンスも桁違いです。

ただ「被害記録がないって本当?」という問いへの答えとして「公式な記録の範囲では本当」と言えてしまう背景には、生物学的な遺伝的な変化もあったと考えられます。

これらの結果を踏まえて、著者たちは「もっとも筋の通った説明」として、人間による長期の迫害の中で、「攻撃的な個体ほど早く排除され、おとなしい個体ほど生き残った」という選択がおきた可能性を挙げています。

その結果、「遺伝的にはボロボロなのに、人との衝突を減らす方向には進化しているように見えるクマ」が生まれた、というわけです。

次ページクマの「性格を変える進化」はアリなのか?

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