東大がヒト遺伝子の93%をマウスに“まるごと”移植できる技術を開発
東大がヒト遺伝子の93%をマウスに“まるごと”移植できる技術を開発 / Credit:あらゆるマウス遺伝子を”ヒト遺伝子全長”に置き換える ――汎用的遺伝子全長ヒト化技術「TECHNO」の開発――
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東大がヒト遺伝子の93%をマウスに“まるごと”移植できる技術を開発 (2/2)

2026.01.16 20:00:17 Friday

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ヒト遺伝子93%をマウスにまるごと持ち込む技術「TECHNO」誕生

ヒト遺伝子93%をマウスにまるごと持ち込む技術「TECHNO」誕生
ヒト遺伝子93%をマウスにまるごと持ち込む技術「TECHNO」誕生 / Credit:あらゆるマウス遺伝子を”ヒト遺伝子全長”に置き換える ――汎用的遺伝子全長ヒト化技術「TECHNO」の開発――

ではTECHNOは、どうやって「マウスの設計図をヒト仕様に着せ替える」のでしょうか。

手順は大きく二段階です。

まず特定のDNAを狙って切り取る技術「CRISPR-Cas9」を使用して、マウスのDNAから特定の遺伝子がある領域を切り出します。

次にその場所に「足場」となる短いDNAを入れます。

この足場には、ヒト遺伝子の両端と似た配列がついており、後から来るヒト遺伝子がここにピタッとはまるように設計されています。

次に組み込むヒト遺伝子全長+前後のスイッチ部分を用意し、足場の助けを借りて入り込ませることを目指します。

では、この新技術の威力は実際にどれほどなのでしょうか。

研究チームはまず、c-Kit遺伝子と呼ばれるマウスの遺伝子座(約10万塩基対)を選び、そこをヒト版c-KIT遺伝子に置換する実験を行いました。

c-Kit遺伝子は血液の形成や生殖に必須の遺伝子です。

すると、マウス本来のc-Kit遺伝子の跡地をヒトc-KITで埋めた場合も、マウスはきちんと生まれ、血液細胞の数や造血の働き、オスでは精子の産生などが概ね保たれている一方で、一部の個体では軽い貧血や精巣の変化も見られていることが示されました。

ヒトのc-KIT遺伝子がマウス体内でしっかり働き、血液を作ったり生殖機能を維持したりする“本来の役割”をかなりの部分で果たしたと考えられます。

次に研究チームは、この手法がどこまで大きな遺伝子に通用するかを試しました。

対象として選ばれたのは、全長約20万塩基対にも及ぶ巨大な遺伝子群(APOBEC3遺伝子クラスター)です。

その結果、TECHNOはこの巨大遺伝子クラスターのヒト化にも威力を発揮し、10~15%という高い効率で組み込みに成功しました。

従来、ES細胞を用いた方法で20万塩基を超える大きなDNA断片を入れようとすると、効率はごく低い値(0.2%ほど)にとどまることが多く、TECHNOはその点で大きな改善だといえます。

またヒト化遺伝子を持つマウスが生まれるとすべてのAPOBEC3遺伝子群がきちんとスイッチオンになっていることが確認されました。

さらに興味深いことに、それぞれの遺伝子が臓器ごとに示す発現バランス(どの遺伝子がどれくらい活動するかの割合)がヒトの場合と非常によく一致していたのです。

特に肺の中で7種類のAPOBEC3遺伝子が発現する割合を比べると、ヒト化マウスと本物のヒトの肺とでほぼ同じパターンになっていました。

これはマウスという小さな体の中に、人間のAPOBEC3遺伝子ネットワークがかなり近いかたちで再現されたと考えられます。

さらに極めつけの実験として、研究者たちはヒト化した遺伝子に病気の変異を加えればマウスで人間の病気を再現できるのか?という問いに挑みました。

標的となったのはX連鎖性慢性肉芽腫症(CGD)というヒト指定難病の原因遺伝子であるCYBB遺伝子です。

この遺伝子が壊れると免疫の白血球(好中球)が活性酸素(ROS)を作れなくなり、細菌などを十分に殺せなくなってしまいます。

研究チームはまずマウスのCybb遺伝子座(約5.5万塩基対)をヒトCYBB遺伝子に全長ヒト化し、さらにヒトで報告されている2つの疾患変異をその遺伝子に導入したマウスを作製しました。

こうして生まれたマウスの白血球を刺激してみると、正常なマウスでは大量に発生する活性酸素が、変異を持つヒト化マウスではほとんど発生しないことが確認されたのです。

言い換えれば、ヒト患者で見られる「白血球が活性酸素を十分に作れず感染症に弱くなる」という病気の核心的な特徴の一つがマウス体内で再現されたことになります。

これはTECHNOによるフルセットのヒト化マウスが病気のモデル動物として有用であることを強く示す結果となりました。

各遺伝子を全長ヒト化されたマウスたちの外観
各遺伝子を全長ヒト化されたマウスたちの外観 / Credit:あらゆるマウス遺伝子を”ヒト遺伝子全長”に置き換える ――汎用的遺伝子全長ヒト化技術「TECHNO」の開発――

今回の研究により、少なくとも本研究で試した範囲では、大きなヒト遺伝子領域でもマウスで丸ごと機能させられることが示されました。

理論上、この手法でヒト全遺伝子の約93%(およそ18,500個)に相当する遺伝子群をヒト化できると試算されています。

これにより一つひとつのヒト遺伝子が「本気で働いたとき」体に何が起こるのか――これを小さなマウスの体で確かめられる道が大きく広がったと言えます。

そして今回作製されたヒト化マウスは、臓器や細胞のレベルでヒトと類似した反応を示す次世代モデル動物として、新薬のテストや難病の解明など、多様な医学・生命科学研究の飛躍的な効率向上に貢献すると期待されています。

もしかしたら未来の医療研究では、マウスの体内に「人間の臓器」や「人間の病気そのもの」を再現して、安全かつ効率的に治療法を試せる時代が来るのかもしれません。

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