馬は「声帯」と「ホイッスル音」の組み合わせで鳴いていた
研究チームは、馬の喉頭の構造をCTスキャンで詳しく調べました。
その結果、声帯の長さは平均で約24ミリメートルでした。 声帯を振動体として考えた場合、このサイズから生理的に現実的な範囲で出せる周波数は主に数百ヘルツ程度に収まり、いななきの高い成分に相当する高さを声帯だけで説明するのは難しいと考えられます。
この点も、高い成分が声帯振動ではないという見立てを補強します。
さらにCT画像では、声門付近の構造として小さな空洞のような領域も報告されています。
研究者たちは、この周辺で空気が狭いすき間を高速で通過し、渦のような流れが生まれてホイッスル音が安定する可能性を挙げています。
ここは今後、流体力学的に詳しく確かめる必要がある部分です。
もう1つ、重要な裏付けになったのが病気の馬の観察です。
研究者たちは「反回神経麻痺」の馬の鳴き声も分析しました。
この病気では片側の声帯の動きが悪くなることがあり、声帯振動由来の成分は乱れたり欠けたりしやすくなります。
実際に、病気の馬では低い成分が弱くなったり途切れたり、場合によっては欠けたりすることが多く見られました。
一方で高い成分は保たれており、低い成分と高い成分が別の仕組みで生まれていることを強く示しています。
ここまでの結果をまとめると、馬のいななきは次のような同時進行で生まれていると考えられます。
まず声帯振動が数百ヘルツ帯の低い成分を作ります。
そして同時に喉頭の一部が狭いすき間を作って高速気流を生み、その気流が喉頭内のホイッスル音として1000ヘルツ以上の高い成分を立ち上げます。
言い換えるなら、馬は声を出しながら同時にホイッスルも鳴らしているのです。
では、なぜそんな複雑なことをするのでしょうか。
研究者たちは、この二重の発声にはコミュニケーション上の利点がある可能性を指摘しています。
2つの成分が同時に存在すると、音の組み合わせが増え、個体ごとの特徴が出やすくなるかもしれません。
また、2つの成分を使い分けることで、異なる種類の情報を同時に重ねて伝えられる可能性もあります。
今後の課題は、高い成分が喉頭内のどこで、どのような渦や共鳴によって生まれるのかを、より直接的に解明することです。
加えて、2つの成分が実際のやり取りの中でどのような役割を担い、相手にどんな影響を与えているのかも、再生実験や伝播実験などで検証が進むでしょう。
私たちが何気なく聞いている「ヒヒーン!」は、馬の体の中で同時に組み立てられている、想像以上に精巧な二重のメッセージなのかもしれません。
























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