【専門家向け】「P. goldsteinii」は完全な悪玉菌なのか?
今回の記憶研究で「悪者」として名前が出てきたパラバクテロイデス・ゴールドスタイニーは、腸の中にすむ嫌気性菌(酸素の少ない場所を好む細菌)の一種です。
もともとは2005年にBacteroides goldsteiniiとして報告され、翌2006年にParabacteroides goldsteiniiへ分類し直されました。
今回のNature論文でこの菌が目立ったのは、年を取ったマウスで増えやすく、若いマウスへ移ったあとも記憶課題を悪化させたからです。
ただし、P. goldsteinii は文献全体で見ると、むしろ“役に立つ側”として報告されることがかなり多い菌です。
たとえば2019年のGut論文では、高脂肪食マウスにこの菌を与えると、肥満、炎症、インスリン抵抗性が改善し、腸のバリア機能も良くなりました。
つまり「今回の記憶研究では悪役」でも、「別の病態では助っ人」になっているのです。
ほかにも、ヘリコバクター・ピロリ感染に伴う胃の炎症を和らげたという報告や、母体免疫活性化モデルの自閉スペクトラム症様行動を改善したというマウス研究があります。
さらに2024〜2025年の論文では、大腸炎を軽くした、炎症関連の大腸腫瘍形成を抑えた、乾癬様の皮膚炎症を抑えた、といった結果も出ています。
要するにこの菌は、「記憶だけに効く菌」でも「いつも悪い菌」でもなく、代謝、免疫、腸のバリア、炎症、さらには神経系まで幅広く関わりうる菌として研究されているのです。
では、なぜこんなに評価が割れるのでしょうか。
いちばん自然な見方は、菌種名が同じでも、株(同じ種の中の系統)や宿主の状態が違うと、出してくる分子や体への作用が変わるというものです。
実際、文献には MTS01、AM58-2XD、CCUG 48944、RV-01 など別々の株名が登場しますし、効いている経路も中鎖脂肪酸、胆汁酸、イソ酪酸、外膜小胞などかなり違います。
では、この菌を減少させる手段はあるのでしょうか。
2024年のCell Host & Microbe 論文で、アスピリンが P. goldsteinii の増殖を抑えると報告されています。
ただし、この話も単純ではありません。その研究では、アスピリンで減った P. goldsteinii を補うと、逆に腸の傷みが軽くなったのです。
つまり「減らせばよい」とは限らず、何の病気で、どの場面で、どの代謝産物が問題なのかを見ないと判断できません。
幸い、今回の研究ではP. goldsteiniiよりもP. goldsteiniiが出すゴミ(中鎖脂肪酸)が記憶力低下の原因であることが示されており、もしかしたら新薬開発のヒントもP. goldsteiniiが出すゴミを減らすことにあるのかもしれません。




























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