ウミウシの色彩は「構造色」を使っていた
生物の色は一般的に「色素」によって説明されます。
色素は特定の波長の光を吸収し、それ以外を反射することで色を生み出します。
例えば、人の皮膚や鳥の羽、花びらの多くは、この仕組みで色づいています。
ところが今回の研究によると、ウミウシの色の多くが色素ではなく、光の反射構造によって生まれていることがわかりました。
これが「構造色」と呼ばれるものです。
構造色とは、ナノスケールの微細な結晶構造が光と相互作用することで特定の色が見える現象です。
タマムシ、チョウ、カメレオンの体色などにも見られる仕組みです。
研究チームは複数種のウミウシを対象に、電子顕微鏡や分光分析を用いて皮膚の内部構造を詳しく調査。
【こちらは6種類のウミウシの皮膚を調べた画像】
その結果、ウミウシの皮膚には「グアニン」と呼ばれる分子からなるナノ結晶が存在し、それが層状に並んでいることが確認されました。
グアニンはDNAの構成要素として知られる物質ですが、ここでは光学材料として機能しています。
この結晶の厚さや間隔、角度の違いによって、反射される光の色が変わるのです。
つまりウミウシの皮膚の色は、色素だけではなく、「構造によって設計された光の色」でもあったのです。
色は「ピクセル」で作られていた
さらに興味深いのは、ウミウシの色の作り方です。
チームは、ウミウシの体表にある色が、連続した塗りではなく「微小な点の集合」として構成されていることを発見しました。
それぞれの点は、特定の色を生み出す独立した構造単位であり、いわば「ピクセル」として機能しています。
この仕組みは、テレビやスマートフォンのディスプレイに似ています。
ディスプレイでは赤・緑・青の小さな点(ピクセル)を組み合わせることで、あらゆる色を表現します。
ウミウシも同様に、異なる色のピクセルを組み合わせることで多様な模様を作り出していたのです。

さらに、この仕組みは印象派の絵画にもよく似ています。
モネやスーラの作品では、小さな色の点を並べることで、離れて見ると一つの色や形に見えるように描かれています。
ウミウシの体表もまさに同じで、ナノ構造による色の「点描」によって、豊かな色彩が表現されていたのです。
興味深いことに、構造色は通常、見る角度によって色が変わる「きらめき(イリデッセンス)」を伴います。
しかしウミウシの色は、むしろマットで均一に見えます。
その理由は、各ピクセル内の結晶の向きがわずかにバラバラであるためです。
これにより光がさまざまな方向に散乱し、特定の方向に強く反射されなくなります。
その結果、タマムシやチョウの翅のように虹色に輝くのではなく、落ち着いたマットな色として見えるのです。
























倫理を捨てればウミウシの体をディスプレイにできるのか
ウミウシの色彩の多彩さと鮮やかさが色素由来ではなく構造色由来であるということに、納得すると同時に驚愕した。
魚体の金属のような銀白色もグアニン由来だし、海生生物のグアニン使いこなし術は一体どのように進化してきたのか?興味が尽きない。