脳編集はゲノム編集と同じくらい重いテーマになる

これまでも、脳の特定の細胞を活性化したり抑えたりする技術はありました。
代表的なのが、光や薬を使って細胞のスイッチを入れる手法です。
しかしそれらは細胞のスイッチを入れるという既存の回線を使うものでした。
ですがLinCxは直結する電気シナプスの配線そのものを新たに追加する非常に精密な操作を可能にしました。
また長距離の接続では、遠くまで伸びた神経線維の先端部に新たな電気シナプスを増設し、その接続を強化することも実現しました。
そしてこれらの操作はどちらも哺乳類であるマウスの行動パターンに変化を起こしたことが示されました。
また既存の操作と比べて外部からの刺激が必要ないという点も大きな違いです。
光遺伝学は光を当てている間だけ作動する「外部スイッチ」で、薬を使う方法も同じく薬を投与している間だけ働きます。
これに対しLinCxは、一度導入してしまえば、ずっと働き続ける常設の配線になり得ます。
外部からスイッチを押し続ける必要がない。
配線そのものが、その動物の脳の一部として組み込まれていく。
これがLinCxの本質的な強みです。
ただ現段階では「脳の配線を増設して誰でも社交的になれる技術が完成した」と言うレベルではありません。
ジラサ博士自身も「ヒトの脳編集はまだ遠い道のりで、倫理的問題もある」と述べています。
脳の配線を人工的に変えてしまう脳編集は、ゲノム編集と同じく、倫理的な議論を慎重に重ねながら進めていく必要があるテーマです。
またマウスで成功した技術が人間に即座に当てはまる保証もありません。
それでも狙った2種類の細胞のあいだに新しい電気シナプスを増設しただけで、動物の行動が変わり、社会的選好、探索行動、ストレス関連行動といった「その個体らしさ」のような部分を変化させられたという結果は、今後の神経科学技術において非常に重大です。
ジラサ博士は次のステップをこう語っています。
「次に、LinCxが、生涯にわたる遺伝子異常によって引き起こされるシナプス機能障害を克服するのに十分な力を持っているかどうかを検証する予定です」
治療目的で用いられるのならば、脳編集もゲノム編集と同じように人類にとっても有用となるでしょう。
魚のタンパク質から始まったこの配線増設のアイデアは、生まれつきの神経疾患や精神疾患の治療の景色を、いつか変えていくのかもしれません。


















































