ヒト受精卵の遺伝子編集で有望な成果が報告された――最高の赤ちゃんにどこまで迫れるか?
ヒト受精卵の遺伝子編集で有望な成果が報告された――最高の赤ちゃんにどこまで迫れるか? / Credit:Canva
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ヒト受精卵の遺伝子編集で有望な成果が報告された――最高の赤ちゃんにどこまで迫れるか? (3/4)

2026.06.08 21:00:57 Monday

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予想外の発見と、立ちはだかる壁

予想外の発見と、立ちはだかる壁
予想外の発見と、立ちはだかる壁 / Credit:Canva

受精卵の内部に遺伝子編集の道具を届けるには、大きく分けて2つの方法があります。

1つは、新型コロナウイルスのワクチンで一躍有名になった「mRNA方式」と同じ発想です。

ファイザーやモデルナのワクチンでは、ウイルスのトゲ(スパイクタンパク質)の設計図であるmRNAを体に注入し、私たちの細胞の中にある「組立工場」にそのタンパク質を“現地生産”させることで、免疫に敵の姿を学習させていました。

今回の実験でも同じように、編集の道具の設計図(mRNA)を送り込み、胚の中の工場にその道具を組み立てさせるやり方がとられました。

もう1つは、設計図ではなく、編集の道具そのもの(タンパク質)を直接届ける方法です。

アメリカのノババックス社が開発し、日本では武田薬品工業が製造したノババックス型ワクチンに発想が近いやり方です。

ノババックスのワクチンは設計図ではなく、ウイルスの一部(スパイクタンパク質)そのものを完成品として直接体に届け、免疫に学習させるものでした。

今回も同様に、あらかじめ試験管の中で組み立てた編集の道具を、完成品としてそのまま胚に注入する方法が同時に行われました。

研究者たちは最初、どちらの方法もうまくいくと考えていました。ところが結果は違いました。

「設計図」であるmRNAを受精卵に注入した場合──19個の胚のうち、正常に育ったものは1つもありませんでした。すべてが1〜4個の細胞の段階で発生を止めてしまったのです。

一方、「完成品」のタンパク質を直接注入した場合は、約3割の胚が胚盤胞まで正常に発生しました。

この落差は衝撃的です。注入したmRNAは、医療用に安定化処理を施した高品質なもの(キャップ付き、修飾ヌクレオチド使用、ポリA尾部付き)で、ふつうの細胞なら問題なく働くはずのものでした。

完成品のタンパク質なら胚は育ったわけですから、胚を止めたのは道具のタンパク質ではなく、“設計図を送り込む”というmRNAのやり方のほうだったようです。

では、なぜ受精卵では設計図が拒否されたのでしょうか。

エグリ博士らは、初期胚には外から来たRNAを察知して発生を自ら止める“見張り番”のような品質管理の仕組みがあるのではないか、と推測しています。

ふつうの細胞は、自分のDNAからどんどんmRNAを作り出して(転写して)タンパク質を合成しています。

ところが受精直後の初期胚は、まだ自分の遺伝子をほとんど動かしていません。いわば「静かな部屋」のような状態です。

そこに突然、外から大量のRNAが入ってくる。静まり返った部屋でいきなり大きな音がしたら気づかないはずがないように、初期胚はこの「異物」を鋭く感じ取り、「何かおかしい」と判断して自ら発生を止めてしまうのかもしれません。

ワクチンで実績のあるやり方をそのまま受精卵に持ち込んで「大丈夫だろう」と考えると、思いもよらない失敗が待っている──そんな教訓を示す結果と言えます。

さらに、道具の届け方だけでなく、編集の「効き方」にも大きな課題が見つかりました。受精卵を書き換えたところ、ある細胞は書き換え済み、隣の細胞は元のまま──というように、編集済みと未編集の細胞がまだらに混ざる状態(モザイク)が生じてしまったのです。もし赤ちゃんの体になったときに、運悪く遺伝子編集された細胞が必要な器官になかった場合、「この遺伝子編集は外れでした」となり、防いだはずの病気を結局は発症してしまうおそれがあります。実際、2018年に生まれた賀氏の3人の子どもたちも、全員がモザイクである可能性が指摘されています。加えて使う道具の設計しだいで、狙った場所以外まで書き換わってしまう問題も確認されました。

それでも今回の研究は、遺伝子をハサミで切り取るタイプに比べれば、確かに大きく前進しました。

染色体がボロボロになるような破滅的なことは起きず、編集を受けた胚の一部は、ちゃんと胚盤胞の段階まで到達したのです。

受精卵段階での遺伝子編集において、大きな一歩であることは確かなのです。

それゆえ「商業化」の足音も聞こえ始めています。

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