受精卵の遺伝子編集技術に大きな進歩

調査ではまずヒト受精卵が用意され、3つのポイントが編集箇所に選ばれました。
1つ目は、血中の悪玉コレステロールを増やす遺伝子(PCSK9)の書き換えです。
この遺伝子の働きをオフにする変異を自然に持っている人は、心臓発作や脳卒中のリスクが低いことが知られています。
チームは塩基編集でDNA配列の「A」を「G」に変え、この遺伝子の機能を止めることを狙いました。
2つ目と3つ目は、酸素運搬を担う2つの遺伝子(HBG1とHBG2)の書き換えです。
私たちは生まれると胎児型から大人型のヘモグロビンに切り替わるのですが、ここに「A→G」の1文字変化を入れると、大人になっても胎児型ヘモグロビンを作り続けることができます。
この変異を自然に持つ人は、鎌状赤血球症やサラセミアといった血液疾患の症状が和らぐことが知られています。
つまり、心臓病リスクを下げる操作が1種類、血液疾患を軽減する操作が2種類──合計3種類の遺伝子操作です。
研究では個々の遺伝子を別々に書き換えるだけでなく、一部の受精卵では、これらをまとめて同時に書き換えることにも挑みました。
結果は、目を見張るものでした。
まず、従来型で問題になっていた大きな欠失(DNAがごっそり消えてしまう現象)が、調べた細胞のどれを見てもゼロでした。
次に、染色体全体を1つ1つの細胞レベルで調べたところ、書き換えの標的となった1番・11番染色体は、どちらも無傷のままでした。
そして、編集した受精卵の一部は、その後も元気に細胞分裂を続け、約6日後にはおよそ100個の細胞からなる小さな球(胚盤胞)にまで育ちました。
これは通常なら、子宮に着床する直前の段階です。編集をしても、胚はここまでちゃんと育つことができたわけです。
さらにチームは、この胚盤胞の内側から、体のいろいろな細胞に育つことができる細胞(ES細胞)を3つ(3系統)取り出し、培養皿の中で増やし続けることにも成功しました。
しかも、そのうちの1系統では、悪玉コレステロールに関連する遺伝子(PCSK9)が父親由来・母親由来の両方とも書き換えられていました。
さらに細胞を詳しく調べたところ、PCSK9から作られるはずのタンパク質が、きれいさっぱり消えていることが確認されたのです。
これは単に「DNAの文字が変わった」という話ではありません。
書き換えの結果として、狙ったタンパク質が実際に作られなくなる──つまり「体の仕組み」そのものが書き換わるところまで確認できた、ということです。
研究用に提供された正常なヒトの初期胚で、染色体レベルの安全性までしっかり確かめたのは、今回が初めてのことです。
もし3つの編集をすべて備えた受精卵が、赤ちゃんとして生まれていたとしたら、まず悪玉コレステロールの遺伝子がオフになっているため、心臓発作や脳卒中になりにくい“遺伝的なくじ”を引いた状態で生まれてくる可能性があります。
また大人になっても胎児型ヘモグロビンを作り続ける力を持つため、もし鎌状赤血球症やサラセミアの遺伝的リスクがあったとしても、症状が和らぐ体質を備えているかもしれません。
しかし研究では、予想外の事実も判明しました。

























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