70万年前の糞はまだ臭っていた

リスといえば、木の実を抱える愛らしい姿を思い浮かべる人がほとんどでしょう。
しかし実はリスは、私たちが想像するよりずっと古い、いわばベテラン中のベテランの動物です。
最古のリス科(リスの仲間全体を含むグループ)の化石は、なんと約3600万年前の北米から見つかっています。
これは恐竜が絶滅した約6600万年前から3000万年ほど後、哺乳類たちが「次の主役は誰だ」と陣取り合戦を繰り広げていた時代のことです。
その後、北米で生まれたリスたちは、ヨーロッパやアジア、そしてアフリカへと広がっていく過程で様々な環境に適応していきます。
そして長い時を経て、ジリスたちは独自の暮らし方を編み出していきました。

今回の研究の主役であるジリス(ground squirrel)は、森ではなく平野に適応したリスの仲間であり、木に登るのではなく、地面に複雑な巣穴を掘って暮らします。
ジリスたちは、なかなか几帳面な動物で地面に掘った巣穴の中に、ちゃんと「トイレ区画」と「トンネル網」と「食料の貯蔵庫」を作ります。
カナダの永久凍土の地には、そんな彼らの小さな地下マンションのような構造が凍り付いたまま残っていました。
そこで今回研究者たちは、この冷凍保存された巣の中に溜められていた「うんち」に着目しました。
もしこのフンに含まれるDNAを調べることができれば、氷河期の生態系を”リスの目線”で垣間見ることができるはずです。
なぜなら、フンには食べた植物、飲み込んだ虫、体内の寄生虫、腸内の細菌——すべてのDNAの断片が、排泄物の中に閉じ込められているからです。
そこで研究者たちは登山用の装備とつるはしを手に、凍りついた崖からジリスたちの数百粒のフンを掘り出しました。
最も古いものは、なんと約70万年前のものでした。
そして研究室に持ち帰り、薬品を使ってフンの中のタンパク質などを分解し、奥に残っているはずのDNAを取り出す作業を始めました。
ここで、思いがけないことが起きます。
70万年前のサンプルからも、はっきりと「ウンチの臭い」がしたのです。
研究者のマーチー氏はこの点について「70万年前のフンがまだ臭うとは思いませんでした。一部を切り取ってDNA抽出のために溶かすと、ラボはものすごいうんちの臭いに包まれたんです。かなり強烈でしたよ」と述べています。
これは単なる笑い話ではありません。
普通、化石化したフン(糞石)は長い時間のあいだに鉱化が進んで、もはや「ウンチ」というより「石」に近い状態になっているものです。
だから普通の糞石は、ぜんぜん臭いません。
しかし研究者たちが採取したフンはちがいました。
永久凍土に閉じ込められて、ずっと冷凍庫の中にいたようなものなので、有機物が分解しきっていなかったのです。
永久凍土からは体の形を保ったマンモスの遺骸がしばしば発見されますが、リスのフンも同様に化石化せずに有機物の状態を保っていたわけです(※いちおう糞化石に分類される存在ですが冷凍保存された糞といったほうが実情に近いでしょう)。
そして臭いがするということは、有機物(生き物に由来する物質)がまだ残っているという証拠であり、DNA抽出の期待度も高くなります。
そのため研究者たちは臭いに耐えつつDNAの抽出と分析を続けました。




















































