孵化後すぐに歩き、自分で肉を食べていた
小さな足の骨は、赤ちゃんの大きさだけでなく、どのように暮らしていたのかも教えてくれました。
チームは、カナダ光源施設(Canadian Light Source)のシンクロトロンを使い、骨を切断せずに内部を約4.4マイクロメートルの解像度で撮影。
その結果、骨の内側には、卵の中で作られたとみられる血管の多い多孔質な組織があり、外側には孵化後に形成されたと考えられる、より密度の高い組織が確認されました。
卵の中では脚に体重がかかりませんが、孵化すれば地面からの衝撃や体重による負荷が加わります。
骨の密度が変化していたことは、この個体が卵から出た後も生きていたことを示す重要な手がかりです。
さらにTレックスの足の骨には、負荷によって傷んだ骨を修復した痕跡も見つかりました。
この骨の再構築は、脚に繰り返し力が加わっていたことを示します。
関節面もよく発達していたため、研究者らは、赤ちゃんが巣の中で動けずにいたのではなく、孵化後まもなく自分の脚で歩き回っていた可能性が高いと考えています。
小さな歯には、実際に何かへ噛みついたことで生じた摩耗も残されていました。
その摩耗の状態は、昆虫のような小さく柔らかい獲物だけでなく、比較的大きな脊椎動物の肉や骨を食べていた可能性を示しています。
これは、親が運んできた肉を食べたのか、それとも自分で小動物を捕らえたのかまでは分かりません。
それでも、孵化幼体が早い段階から移動し、自力で食べられる「早成性」の動物だったという解釈を支える証拠になります。

また、推定された赤ちゃんと卵の小ささから、Tレックスは一度に多くの卵を産んでいたと考えられます。
現生の鳥類やワニ類に見られる、親の体重、卵の重さ、産卵全体の重量の関係を当てはめると、保守的なモデルでは、Tレックスの一腹の卵数は約21~32個と推定されました。
チームは、ティラノサウルス類全体では少なくとも15~30個を産んだ可能性が高く、50個、あるいは100個という大きな一腹も不可能ではないとしています。
ただし、Tレックスの完全な巣が見つかり、卵が直接数えられたわけではありません。
この数字は比較モデルから求めた概算であり、チームも「正確な個数ではない」と注意しています。
それでも、複数のモデルが「少数の巨大な卵」ではなく「多数の比較的小さな卵」という共通した結果を示した点は重要です。
多くの子を産み、1匹ずつへの投資を抑える繁殖方法は、少数のヒナを手厚く育てる現代の鳥類よりも、ワニなどの爬虫類に近い特徴です。
ただし、Tレックスの親が子育てをまったくしなかったという意味ではありません。
ワニも巣や幼体を守りますし、ほかの恐竜では抱卵や親子で行動した証拠も見つかっています。
Tレックスも一定の保護は行ったものの、その赤ちゃんは親から餌を与えられ続けなければ生きられない存在ではなかった可能性があります。
巨大なTレックスは、最初から生態系の頂点に立つ姿で生まれたわけではありません。
その出発点は猫ほどに軽く、自分の脚で移動し、早い段階から食べ物を口にする小さな肉食恐竜でした。
今回の発見は、恐竜の繁殖方法が、多数の子を産む爬虫類型と、少数の子へ多くを投じる鳥類型の中間にあったことを示す、貴重な手がかりなのです。






























