逃げ出す前に相手を見極めていた可能性
映像提示前の馬の平均心拍数は、1分あたり51.0回でした。
ウォンバット映像では55.9回で、基準値との有意な差はありませんでした。
ところが、争うオオカミでは63.9回、毛づくろいするオオカミでは66.3回まで上昇しました。
意外にも、攻撃的なオオカミと、穏やかに毛づくろいするオオカミの間には有意差がありませんでした。
これは、馬がオオカミ同士の行動内容よりも、オオカミ映像に共通する何らかの視覚的特徴に反応した可能性を示します。
ただし、体形、動き、頭数、背景、毛色などのうち、何が手がかりになったのかは分かりません。
また、オオカミ映像中の平均心拍数は、雄が76.8回、雌が54.8回で、雄のほうが高くなりました。
群れの中で社会的地位が高いと評価された馬ほど、オオカミ映像中の心拍数が高い傾向も見つかっています。
研究者らは、雄の反応には野外で周囲を警戒する役割が、高順位の馬の反応には群れの意思決定への関与が、それぞれ影響している可能性を挙げています。
ただし、雄は6頭しかおらず、社会的地位も飼育スタッフの評価に基づいているため、今後の検証が必要です。
視線にも興味深い特徴がありました。
馬は脅威を見る際に左目を使いやすいとされますが、今回の実験では左目だけで見る行動はほとんど確認されませんでした。
オオカミ映像では右目視と両眼視に差がなく、ウォンバット映像では両目で正面から見る時間が長くなっていたのです。
研究チームは、馬が反射的に逃げようとしたのではなく、目の前にあるものが何なのかをじっくり見て判断しようとしていた可能性を指摘しています。
今後は、背景や動き、頭数などを揃えた映像を使い、馬が捕食者を見分ける際にどの特徴を手がかりにしているのかを調べる必要があります。
馬が静かに立っているからといって、必ずしも心まで落ち着いているとは限りません。
そのポーカーフェイスの裏では、私たちの気づかない「内心ドキドキ」が起きているのです。






























