水素はいつ「粒子」になり、いつ「波」になるのか――量子トンネルを支配する仕組みを解明
水素はいつ「粒子」になり、いつ「波」になるのか――量子トンネルを支配する仕組みを解明 / Credit:Canva
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水素はいつ「粒子」になり、いつ「波」になるのか――量子トンネルを支配する仕組みを解明 (2/3)

2026.07.20 21:00:23 Monday

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「水素がいつ粒子になり、いつ波になるのか」鍵は結晶だった

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Credit:水素はいつ「粒子」になり、いつ「波」になるのか?――結晶対称性が量子トンネル現象を支配することを解明――

そこで今回、研究チームはまず、約マイナス238度(35ケルビン)という極寒の中で、極薄のバナジウム膜を用意し、そこへ水素を撃ち込みました。

温度が高いと、水素は熱エネルギーを借りて、壁を勢いよく乗り越えてしまいます。

これは粒子としての、いわば力ずくの移動です。

ところが、キンキンに冷やして熱の力を大幅に弱めれば、この力ずくの乗り越えは、ほとんど起こらなくなります。

にもかかわらず、水素が速く動くなら、熱による乗り越えだけでは説明がつきません。

そこで、波として壁を「すり抜ける」量子トンネルが、有力な候補として浮かび上がります。

極寒は、水素の隠れた「波の顔」をあぶり出すための、巧妙な舞台装置だったのです。

この状態で研究者たちは、水素がどれくらいの速さで広がるかを実験で調べました。

すると、水素が多い領域と少ない領域とで、動き方が大きく異なることが見えてきました。

まず、水素がまばらにしか存在しない領域では、水素はあっという間に膜全体へ広がりました。

計算によれば、1秒の間に、およそ33マイクロメートルの範囲まで広がれるほどの速さでした。

これは膜の厚さ40ナノメートルの約800倍であり、隣り合う席と席の間隔に換算すると、およそ30万個分にも相当します。

極寒の中でこれほど広がれたのは、トンネル効果が働いていたからです。

一方、水素がぎっしり詰まった状態では、水素はトンネル効果による動きをほとんど見せませんでした。

では、まばらな状態と混雑した状態とでは、いったい何が変わっていたのでしょうか?

答えは、結晶の「形」でした。

水素がまばらなとき、バナジウムの結晶は、きれいに整った立方体の形を保っています。

角がそろった、几帳面に片付いた部屋のようなものです。

このとき、水素にとっての席は、隣もそのまた隣も「瓜二つ」です。

実はトンネル効果は、トンネルの入り口と出口の状態が似ていると、起こりやすくなることが知られています。

普通、私たちは「動くもの」と「その行き先」を、別々のものとして考えます。

ボールがどこへ飛ぶかはボールの投げ方次第であり、壁の向こうの床がどうなっていても、飛んでいくボールには関係ないと思うでしょう。

ところが量子的な波の状態にある水素にとっては、今いる席の状態と移動先の席の状態とが、分かちがたく結びついています。

行き先の席が今いる席と同じ状態にあれば、水素の波は行き先でも同じ状態になりやすく、響き合うようにして向こうへにじみ出やすくなるからです。

波の言葉で言い換えれば、水素の波は席と席の間で「つながって」初めて、向こうへ流れ込めると言えるでしょう。

そのため、2つの席の状態がそろっているほど、そのつながりも生じやすくなります。

ところが、水素をぎっしり詰め込むと、結晶内部に多数の水素が入り込んで、結晶の形が変わってしまいます。

結晶というと、水晶のように動かない固体を思い浮かべるかもしれません。

しかし金属の結晶格子は、原子がバネでつながった柔らかい骨組みのようなものであり、隙間に何かが入れば、たとえ水素のように小さなものでも、その形を変えます。

その結果、きれいな立方体が、一方向に伸びた箱形へとゆがみます。

すると、先ほどまで瓜二つだった席が、ちぐはぐな状態になってしまいます。

こうして、席と席をつなぐ波がつくられにくくなり、トンネルも起こりにくくなるのです。

こうなると、熱の力で壁を乗り越えることも、もはや容易ではありません。

その結果、ゆがんだ結晶では、波としての近道であるトンネルが強く抑え込まれ、熱を使った移動も、低温ではひどくのろのろとしか進まなくなったのです。

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