5~10秒おきの「超スローテンポ」は何を伝えている?
スロークリックのもう1つの奇妙な特徴は、そのリズムです。
通常のコーダに比べてはるかに遅く、クリックとクリックの間には5~10秒ほどの間隔が空くことがあります。
それにもかかわらず、オスたちは極めて正確に一定のテンポを保っていました。
人間でも、数秒おきに同じ間隔で手を叩き続けるのは簡単ではありません。
そこで研究者らが提示したのが、海底から返ってくる反響音を「ストップウォッチ」のように使っている可能性です。
強いクリックが海底まで届いて反射し、そのエコーが数秒後に戻ってきたタイミングを、次のクリックを出す手がかりにしているのではないかというのです。
ただし、これは今回確認された事実ではなく、現時点では仮説です。
また、なぜオスだけがこの音を発するのかも分かっていません。
研究者らは、大きなオスほど巨大な鼻部を持ち、より低い周波数の音を出せる可能性があることから、スロークリックが体の大きさを正直に示す「正直な広告(honest advertisement)」として働いている可能性を挙げています。
つまりメスに対する「大きなオスがここにいる」というアピールや、ライバルのオスへの威嚇に使われているのかもしれません。
しかし、受け手のクジラがどう反応するかはまだ調べられていません。
チームは今後、水中スピーカーからスロークリックを再生し、オスやメスが近づくのか、離れるのか、自らクリックを返すのかを確かめる再生実験を計画しています。
マッコウクジラのスロークリックについて、今回確実に分かったのは「非常に大きい」「非常に遠くまで届き得る」「非常に遅いのに正確なリズムを持つ」ということです。
その音が求愛なのか、威嚇なのか、それとも私たちがまだ想像していない役割を持つのかは分かりません。
深海を数十キロメートルも進む巨大なクリック音は、マッコウクジラが広大な海をどのように「通信空間」として利用しているのかを解き明かす、新たな手がかりになりそうです。

































