決まったルートを走る仕事では同じ傾向が見られなかった
年齢などを調整したアルツハイマー病による死亡割合は、全体では1.69%でした。
これに対し、タクシー運転手では1.03%、救急車運転手では0.91%でした。
しかも、平均死亡年齢の違いが結果を左右していないかを確かめるため、60歳以上で死亡した人だけに絞っても、この2職種が最も低いという傾向は変わりませんでした。
さらに、アルツハイマー病が「主な死因」だった場合だけでなく、「死亡に寄与した病気」として記載されていたケースまで含めても、同じ傾向が確認されています。
一方、同じように乗り物を扱う仕事でも結果は大きく異なりました。
調整後の死亡割合は、バス運転手で1.65%、航空機パイロットで2.34%、船長で2.12%でした。
つまり研究者たちは、単に「運転すること」ではなく、目的地や状況に応じてその場でルートを考える「リアルタイムの空間ナビゲーション」に意味があるのではないかと考えています。
タクシーや救急車では、現在地と目的地の位置関係を把握しながら、その都度進む道を判断しなければなりません。
こうした作業では、空間認識を担う海馬が繰り返し使われます。
実際、過去のロンドンタクシー研究では、長年ナビゲーションを行ってきた運転手で海馬の構造的な違いが報告されています。
さらに今回、血管性認知症や原因不明の認知症について同じ分析をすると、タクシー運転手と救急車運転手だけが特に低くなるパターンは見られませんでした。
こうした結果から研究チームは、頻繁な空間ナビゲーションと海馬の変化が、アルツハイマー病による死亡の少なさに関係している可能性を考えています。
ただし今回調べたのはアルツハイマー病の発症率そのものではなく、「死亡者のうちアルツハイマー病が死因となった割合」です。
また、もともと空間認知能力の高い人ほどタクシー運転手のような仕事を選び、長く続けやすかった可能性もあるため、道を考える仕事そのものがアルツハイマー病を防いだとはまだ言えません。
今後、仕事中にどれほど空間ナビゲーションを行っているのかや、脳にどのような変化が起きるのかを長期的に調べれば、この興味深い関連の正体がよりはっきりしてくるでしょう。
毎日のように「頭の中の地図」を使うことは、単なる仕事の技術にとどまらず、脳の老化とも関係しているのかもしれません。



































