バラバラにしても、細胞は年齢を忘れなかった

脳の成長には、大まかな筋書きがあります。
はじめに神経細胞が次々と作られ、やがてその生産は打ち切られ、以降は神経細胞を支える星形の細胞(アストロサイト)などへと主役が移っていきます。
通常、この順番が逆戻りすることはありません。
そこでチームは、少々乱暴な実験に踏み切りました。
9〜12ヶ月育てた古いミニ脳と、培養わずか15日の若いミニ脳を、それぞれ細胞のレベルまで解体します。
そして両者を混ぜ合わせ、ひとつの塊として組み直しました。
年齢の違う部品を寄せ集めて作られた合成物です。
同じ塊の中にいる以上、どちらの細胞も浴びる信号は同じです。
もし細胞が周囲の環境だけを頼りに育つのなら、両者は足並みを揃えて同じものを作り始めるはずでした。
ところが、そうはなりませんでした。
若い細胞は、予定通り初期の細胞ばかりを生み出しました。
一方で古い細胞は、若い細胞から「神経細胞を作れ」という信号を受け取ってニューロン作りを再開したにもかかわらず、その号令が指し示す初期段階へは戻りませんでした。
組み直してからわずか2週間で、本来なら2〜3ヶ月かけてようやくたどり着く後期の神経細胞やアストロサイトを産み出していたのです。
同じ環境に置かれ、同じ号令を聞きながら、片方だけが数ヶ月分の工程を飛ばした形です。
「これは一種の『発生時間の歪み』と捉えるのが適切でしょう」とアルロッタ氏は述べています。「オルガノイド細胞は培養中に経過した時間を記録し、記憶していることを示しています。これは、その発達が細胞固有の時計によって制御されており、ヒトの脳の発達における内因的なメカニズムを反映していることを示唆しています」
時間を測っていたのは、培養皿でも研究室のカレンダーでもなく、細胞そのものだったということです。
その時計がどんな分子でできているのかは、まだ分かっていません。
ただし、ここでいう記憶は、私たちが子どもの頃の出来事を思い出すようなものではないとアルロッタ氏は強調しています。
過去が、細胞のレベルで刻み込まれているという意味です。
































