手が届かなかった「生まれた後」へ

ヒトの脳の成熟のうち、生まれた後に進む十数年は、これまで細胞のレベルでは観察のしようがない領域でした。
その空白へ踏み込むための足場を、この研究が初めて用意しました。
支えになったのが、あの培養液です。
神経細胞を年単位で健康なまま保てると分かったことで、この先さらに長く、さらに詳しく発達を追える見通しが立ちました。
もう一つの手がかりが、古い細胞のふるまいです。
先に触れたとおり、ヒトの脳は早い段階で神経細胞の生産をやめてしまいます。
ところが古い細胞は、若い細胞からの信号を受けてその生産を再開しました。
打ち切られたはずの生産を再び動かすスイッチの正体が分かれば、神経細胞が失われていく病気の研究にも新しい道が開けます。
そして、年単位で育ち続けるミニ脳は、発達の途中でつまずきが生じるタイプの病気を追う土台にもなります。
「これらの組織モデルは、これまでにないほどの長寿命と生体に近い特性を備えているため、自閉症などの症状がどのように発症し、人生の後半でどのように進行していくのかをより深く掘り下げる機会が得られるでしょう」と、米国立精神衛生研究所(NIMH)所長代理のアンドレア・ベッケル=ミッチェナー氏は述べています。
アルロッタ氏も「胚がどのようにして徐々に複雑で成熟した脳を自然に構築していくのかについては、まだ解明すべきことがたくさんあります」また「これらの知見をオルガノイドに応用することで、出生後に起こるヒトの脳の成熟における、これまで未解明だった事象をモデル化することが可能になるでしょう」と述べています。
※なお研究室ではミニ脳が今も育ち続け7年に達したものもあるようです。
































