研究チームの予想が、きれいに外れた

分析の対象となったのは、韓国の未婚の男女172人です。
全員が今つき合っている恋人がいて、なおかつ過去に3カ月以上続いた交際も経験しています。
平均年齢は28歳ほどで交際期間は平均するとおよそ1年10カ月でした。
参加者はまず、今の関係にどれだけ満足しているかと、この関係を続けていくつもりがどれだけあるか(コミットメント)を答えます。
そのうえでくじ引きのように3つのグループへほぼ均等に振り分けられ、それぞれ別の文章を書くよう求められました。
1つ目のグループが書いたのは、自分にとって最も大切だった元恋人との、懐かしい出来事です。
2つ目は、今の恋人との懐かしい出来事。
3つ目は比較の基準として、先週自分が何をしたかを、なるべく客観的に書きました。
書き終えた参加者は、先ほどと同じ2つの質問にもう一度答え、あわせて、書いているあいだにどんな気持ちが湧いていたかも報告しました。
書く前と書いたあとの変化を3つのグループで見比べれば、思い出を振り返ったことの影響が浮かび上がるわけです。
結果、研究チームの仮説は、外れました。
元恋人について書いたグループも、今の恋人について書いたグループも、書く前より今の関係への満足度が上がっていたのです。
しかも、元恋人グループと今の恋人グループのあいだに差はありませんでした。
懐かしむ相手が終わった恋の相手であっても、今の恋への満足は削られなかったことになります。
一方で、先週の出来事を書いた対照群では、満足度は動きませんでした。
コラム:なぜ元恋人の思い出が今の恋を満足させるのか?
この分野の土台になっている知見は、懐かしさが誰との記憶であっても人を温めるというものです。懐かしさは自分にとって意味のある過去を、そのときそばにいた人ごと呼び戻す感情で、思い出すと孤独感が薄れ、人とのつながりの感覚が強まり、自分の人生に意味があるという感覚が上がることが繰り返し報告されてきました。
この見方に立つと、記憶の相手が誰かはあまり関係ありません。懐かしさで心が満たされた状態のまま、今の関係を評価する質問に答えれば、点数は上がります。今回、元恋人条件と今の恋人条件で満足度の上がり方に差がなかったことは、この説明とよく合います。
もう一つは、終わった恋を思い出すことが、今の恋を引き立てるという筋道です。過去の関係には、うまくいかなかった部分や、別れに至った理由がついてきます。それを思い出すことで、今の関係のほうが相対的に良く見えるというものです。ただ今回の研究は思い出の比較は行っていないため、予測に留まります。
人間は感情だけでなく、記憶も連想も節操がない、かなりガバガバな生き物なのかもしれません。
次に感情の内訳を見ると、予想とは逆向きのずれが現れました。
今の恋人について書いた人のほうが、元恋人について書いた人よりも、ネガティブな感情を多く報告していたのです。
うれしさと切なさが同時に湧くような入り混じった感情(両価的感情)も多く、逆にポジティブな感情は少なくなっていました。
どちらのグループも、書いていたのは喜びにあふれた思い出だったにもかかわらずです。
そして最も目を引いたのが、「関係を続けていくつもり」のほうの動きでした。
全体で見るかぎり、この気持ちにはグループによる違いが出ていません。
ところが、交際期間の長さを計算に入れて調べ直すと、隠れていた絵が浮かび上がりました。
交際9カ月ほどの、まだ日の浅いカップルでは、今の恋人との思い出を書いた人の「続けていくつもり」が下がっていたのです。
同じく日の浅いカップルでも、元恋人について書いた人にその低下はありませんでした。
3年近く続いているカップルでは、どちらを書いてもこの差は現れません。
日の浅い人たちでは、懐かしい思い出を書いたあとのポジティブな感情も、対照群より低くなっていました。
なお、男性のほうが過去の恋を好意的に振り返ることが知られていますが、今回の実験で男女の差は出ませんでした。



























