音の「最後の1粒」は、どんなふうに消えたのか?

研究チームがまず用意したのは、音叉のように震える、ナノサイズの小さな「機械振動子」です。
そして検出器として使ったのが、量子の情報をためておける電気回路「超伝導量子ビット」でした。
共同筆頭著者のタクマ・マキハラ(Takuma Makihara)氏とエリック・サキエル(Erik Szakiel)氏は、この量子ビットと振動子をつなぐ方法を開発しました。
チームは位置を正確に合わせて転写する技術で両者を1つにまとめ、量子ビットが振動子の揺れの大きさではなく、フォノンの数に反応するようにつなぎました。
最近スタンフォード大学で博士号を取ったマキハラ氏は「この非常に長持ちする振動体を作り、どちらのしくみも台なしにせずに、小さな電気の検出器である量子ビットと組み合わせるために、新しい工程を次々と開発し続けなければなりませんでした」と振り返っています。
カギになったのは、振動子がとても長く鳴り続けられることでした。
この振動子は2ミリ秒(1000分の2秒)ものあいだ震え続けます。これは、同じ性能をもつふつうの大きさの音叉なら数時間鳴り続けるのに相当します。
この長い「余韻」のおかげで、研究チームは数百回もの読み取りを行えました。
量子ビットは振動子の状態を壊さずにくり返しフォノンの数を測り、「フォノンが1個ある状態」と「1個もない状態」を見分けていきました。
また、測定の結果が「いま1個入っている」と知らせる形で、フォノンが1個だけある状態を用意することにも成功しています。その忠実度(狙った状態をどれだけ正確に作れたかを表す値)は85%でした。
こうして読み取りを時間の順に追っていくと、振動子が「1」の状態から「0」の状態へ、不連続にパッと切り替わる瞬間がとらえられたのです。
音の最後の1粒は、少しずつ薄れたのではなく、一気に消えていたわけです。
これは、音の「量子ジャンプ」(量子の状態がとびとびに一瞬で切り替わること)を直接とらえた初めての観測とされています。
研究チームは、この不連続な移り変わりを、質量をもって震える物体の中で量子力学がはっきりと姿を見せた例だと位置づけています。
振り返ると、量子ジャンプは1900年代初めに理論の中で考え出されました。1986年には閉じ込めたイオン(電気を帯びた原子)で初めて示され、2007年には光子でも観測されています。
音でもこれまでに量子ジャンプの手がかりは得られていましたが、ひとつひとつのジャンプをリアルタイムで直接追いかけたことはありませんでした。
今回の成果は、1世紀以上続いてきたこの実験の歴史に、「音」という新しい1ページを加えたことになります。

























