とっさに動くなら吐く息、思い出すなら吸う息?

息を吐いているときと、吸っているときでは、体の中で何が違うのでしょうか。
呼吸と体の反応の関係は、今回とは別の実験でも報告されています。
たとえば突然大きな音を聞いて驚いたとき、思わず目をつぶる反射は、息を吐いている最中のほうが大きく出ます。
本人の意思とは無関係に出る反射でさえ、息を吸うときと吐くときで強さが違うのです。
また、体の感覚や動きに関わる脳の領域(感覚運動野)の活動も、力を抜いて息を吐いているときに、呼吸のリズムと最もよくそろうと報告されています。
注意を保つ働きに関わる脳のネットワークにも、呼吸に合わせて活動が変わる領域があります。
ぼんやりしているときなどに働く「デフォルトモードネットワーク」や、課題に注意を向ける「前頭頭頂ネットワーク」が、その例です。
研究チームは、こうした脳の活動と呼吸の結びつきが、今回の反応時間の違いにも関わっているのではないかと考えています。
では、逆に吸う息が向いている仕事もあるのでしょうか。
これまでの研究では、「顔に表れた感情を見分ける」「覚えたことを思い出す」といった課題で、吸うときが有利だと報告されています。
どちらも、外から入ってきた情報を、頭の中にある記憶や知識と照らし合わせる作業です。
つまり、情報の意味を読み取る作業には吸う息、合図に素早く反応する作業には吐く息が有利なのかもしれません。
呼吸のどの段階が有利かは、取り組む課題によって変わる――研究チームはそう考えています。
論文は、こうした違いを利用して、必要な動きに呼吸のタイミングを合わせる可能性にも触れています。
スタートの合図を待つ短距離選手や水泳選手、単調な道を走るドライバーなどの反応にも、役立てられるかもしれません。
ただし今回の反応課題では、参加者に呼吸の仕方を指示しておらず、意識して息を長く吐けばその分だけ速くなるのかは、まだ確かめられていません。
また、呼吸の段階によって反応の速さが変わる仕組みも、まだわかっていません。
ただ心理学者のケン・パラー氏は、さまざまな脳波のリズムが呼吸とそろうという先行研究に注目しています。
そのうえで、脳の働きの効率が、反応の速さに関わっているのではないかと説明しています。
研究チームは今後、寝不足で反応が鈍るときにも、呼吸に伴う数十ミリ秒の違いは残るのでしょうかも確かめたいとしています。
「脳と身体のつながりを調べる研究はまだ新しい分野です。だからこそ、今回の研究結果はいっそう興味深いものになっています」と、筆頭著者のエリカ・M・ヤマザキ氏は述べています。
シビアなタイミングが求められるゲームで、成功したり外したりするとき、息を吸っていたのか吐いていたのかが裏で関わっているのかもしれません。





















