「森でいちばん孤独な類人猿」の子どもたちの遊び事情

オランウータンの子どもは、生まれてから7年以上ものあいだ、母親に頼って暮らします。
その間、母親はほとんどの時間を、いちばん下の子と2頭きりで過ごします。
そのため子どもには、同じ年ごろの相手と出会う機会がほとんどありません。
けれども仲間とじゃれ合うことは、のちの暮らしに必要な体の強さや、ほかの個体との付き合い方を身につける助けになります。
研究チームは2003年から、インドネシアのボルネオ島にある調査地で、人に慣らした野生のオランウータンの母子を朝から晩まで追いかけてきました。
大人のメスどうしが出会うことはまれで、出会っても互いにあまり近づかず、用心深くふるまいます。
ところが子どもどうしは別で、互いに駆け寄っては取っ組み合い、かみつき合って遊び始めるといいます。
研究の責任者マリア・ファン・ノールトヴァイク氏によると、その「遊びのスイッチ」を切れるのは、先へ進むと決めた母親だけなのだそうです。
同氏は、子どもが遊んだ日の母親が「本当に長くてきつい一日」を過ごしているように見えることに気づいていました。
そこでチームは、15年間に集めた31組の母子、約3万2600時間分の行動と移動の記録を使って確かめることにしました。
調べたのは、母親が子どもを近所の仲間と遊ばせるために自分の動き方を変えているのか、そしてそれに代償があるのかという点です。
母親は遊ぶ日の前から「ある場所」へ向かっていた

チームは、母親が森のどこで過ごしたかの記録と、近くに暮らすほかの母子の特徴を組み合わせる統計の手法で分析しました。
その結果、同じくらいの年ごろの子を連れた近所の母親どうしは、1年を通じて同じ森の範囲を目立って多く共有していたことが分かりました。
この重なりは、母親どうしが血縁(親戚どうし)かどうかや、果実の実り具合とは関係なく見られました。
それに合わせるように、近所の子どもどうしは、年が近いほどよく一緒に遊んでいました。
論文の筆頭著者オッド・ヤコブソン氏は「母親は、体の面でも成長の面でもちょうどよい遊び相手と、子どもを引き合わせているようだ」と話しています。
ただし、この遊びの時間はタダではありませんでした。
子どもが仲間と遊んだ日、母親はふだんより長い距離を移動し、食べている時間も短くなっていたのです。
さらに移動の距離は、遊んだ当日だけでなく、その前の日と後の日にも伸びていました。
オランウータンのメスには、いちばん長く過ごす中心の場所(コアエリア)があります。
母親たちは遊ぶ前の日から相手の母親のコアエリアへ向かって動き、遊んだ後は自分のコアエリアへと戻っていたのです。
つまり子どもどうしの出会いは偶然ではなく、母親が何日もかけて計画し、自分から取りにいったものだと考えられます。
ヤコブソン氏は、母親たちが同じ年ごろの子を持つ母親と出会いやすいよう、自分のいる場所を調整しているようだと述べています。
こうした狙いを持った動きからは、ファン・ノールトヴァイク氏が「森のうわさ話」と呼ぶものに、母親たちが通じていることがうかがえるようです。
同氏は「私たちは、単独で暮らすことの隠れたコストを明らかにした」と述べています。
オランウータンの母親は、子どもに食べ物と安全を与えるだけでなく、仲間と過ごす機会まで用意する役目を担っていたのです。
研究チームによると、これはあまり注目されてこなかった子育ての形です。そして、もっとも単独に近い暮らし方の動物でも、成長に必要な仲間との関わりは満たされうることを示しているといいます。
森の中を母と子の2頭きりで黙々と進んでいるように見えるオランウータンも、実は遊ぶ前の日から、わが子の遊び相手の母親がふだん過ごす場所のほうへと枝をたどっていたのです。
帰り際に「もっと遊びたい」とぐずる子をなだめる苦労まで森の母親たちと同じだとしたら、親という仕事はどこでも大変そうです。























