・ギニア湾の海上に「座標0,0」の架空の「ヌル島」が存在する
・コーディングのエラーにより「座標0,0」となった場所が「ヌル島」にジオタグされる
・犯罪マッピングソフトが示す犯罪発生箇所など、多くの解読不可能な住所が「ヌル島」にジオタグされている
パソコンやスマホで位置情報を求める無数の人々が、アフリカ西海岸から数百キロ離れたギニア湾の海上に浮かぶ孤島に飛ばされる現象が起きています。
しかし、この島が「存在するはず」の場所には、実際には一つのブイが波間に寂しくぷかぷか浮いているだけです。”Station 13010-Soul”という名のこのブイは、米国、ブラジル、フランスが熱帯太西洋上の気流を研究する目的で共同開発した熱帯大西洋ブイ網(PIRATA)を構成するブイの一つ。熱帯大西洋の気象は、PIRATAブイ網が収集するデータを用いて解析され、世界の気象予測や気候調査の改善に役立てられています。
地理的特徴は何も無いただの海の上なのですが、”Station 13010-Soul”には他のブイには無い特徴があります。それは赤道とグリニッジ子午線がちょうど交わる場所、つまり経度と緯度がどちらも0の座標地点に係留している、ということです。つまり、地球上でもっとも「ジオタグ」された、つまり写真やSNSなどに地図上の座標をタグ付けされた場所の一つかもしれないのです。
地点を地図に追加する時、ジオコーダーというプログラムが住所を地理座標に変換します。ところが時々、ジオコーダーのバグや打ち間違いなどにより、コーディングが正しく行われず、結果が「座標0,0」または「該当無し」となる場合があります。たとえば、スマホで写真を撮る時に位置情報機能が正しく作動してないと、データには「座標0,0」がタグ付けされます。
問題は、このデータを別のプログラムで読み込もうとした時に生じます。高性能のソフトでは「座標0,0」は無効と判断され無視されますが、低性能なソフトははるか彼方の”Station 13010-Soul”を撮影地点として認識してしまいます。信じられないほど多くの住所が、この仮想の”Null Island(ヌル島、ゼロ島)”にタグ付けされているのは、こういう理由からなのです。
このユニークな呼び名は、地図ソフトNatural Earthの作成者が2011年に付けたもので、その頃からヌル島は地理学者たちの内輪ネタとして親しまれていたようです。作成者らが地図上にヌル島を設けた理由は、地図ソフトで座標指定エラーが生じた際に、統計処理などに支障が出ないように形式的な陸地として使用するためです。「ヌル島共和国(!)」として仮想の歴史や国旗、共和国の地図が作られたケースもあります。
実は、”Station 13010-Soul”だけが世界で唯一のヌル島という訳ではありません。ヌル島の最初の発見者であるナサニエル・ケルソ、トム・パターソン両氏は、ヌル島のような特異点は、WGS 84を含むすべての測地系に存在すると示しています。イギリスの地図製作者ケネス・フィールド氏は、5,700もの異なる測地系に存在する、すべてのヌル島、ヌル湖、ヌルブラックホール(座標系の領域外に存在する座標)を、ぬるぽ…もとい「ヌルポイント」として突き止め、一つの地図にまとめました。
ヌル島の面白さは学術分野に留まりません。たとえば、ロサンゼルス市警察署の犯罪マッピングソフトでは、市庁舎の近くで犯罪が急増しているように見えたのですが、これは市役所の近くがデフォルト地点に設定されていて、発生場所が解読不可能の無数の犯罪がデフォルト地点にタグ付けされたためでした。解決策として、エラーのある犯罪報告はヌル島に飛ばされることになりました。このように、打ち間違いやコーディングのエラーによりヌル島に行き着いた場所は無数に存在するのです。
もし今度、あなたが位置情報検索で「ぬるぽ」に飛ばされた時は、ぜひ「ガッ」と突っ込んでみてください。反応は「ヌル」かもしれませんが…。
via: amusingplanet / translated & text by まりえってぃ