■臨界フリッカー融合頻度を用いて計測したデータから、身体の小さい生物ほど、時間の流れが遅いことが示された
■身体の小さな生物は、視覚刺激に対する目の反応が速い分、脳の処理速度も速い
■人間がより速く移動するには、コンピュータアシストの活用や、薬剤の摂取・移植による視覚システム強化が必要
ハエを侮ることなかれ。
最近の研究で、身体の小さい生物ほど、知覚する時間の流れが遅いことが明らかになりました。短時間に起きる周囲の動きを細かく察知することで、自分よりもずっと身体の大きな捕食者からうまく逃げているそうです。
つまり、昆虫や小鳥が1秒間で見る視覚情報の量は、ゾウよりもずっと多いということ。食べる側と食べられる側の違いは、視覚情報の処理速度にあるのかもしれません。
研究を行ったのは、アイルランドのダブリン大学トリニティ・カレッジのケヴィン・ヒーリー氏とアンドリュー・ジャクソン氏ら。論文は、雑誌「Animal Behaviour」に掲載されています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0003347213003060
身体サイズと視覚反応の速さに顕著な相関
ヒトでも、時間の感じ方には個人差があります。スポーツ選手は、一般人よりも視覚情報を速く処理できる傾向が強く、熟練のゴールキーパーがボールが向かって来る方向を瞬時に察知できるのはこのためです。
また、ヒトの視覚情報の処理速度は、加齢にも関係しています。若い時はすばやく反応できても、歳をとると反応が鈍くなりますよね。
研究チームは、さまざまな生物の時間知覚の違いを調べるため、別の研究チームが「臨界フリッカー融合頻度」と呼ばれる尺度を用いて計測したデータセットを収集しました。この尺度は、動いている物を認識する能力を客観的に比較する尺度の1つ。点滅する光を見る時、点滅速度が速くなるほど光が繋がって点灯状態のように見えますが、どの点滅速度まで点滅として捉えることができるかを測ります。
分析の結果、生物の身体のサイズと、視覚情報に対する反応の速さに、強い相関があることが分かりました。つまり、身体の小さな生物ほど視覚反応が速く、身体の大きな生物ほどその反応が鈍くなるということです。
私たち人間は、自動車や航空機の改良を重ねることで「もっと速く移動したい」という願望を叶えるための努力に余念がありません。ですが、そこには常に、人間の視覚情報処理の限界が存在しています。ジャクソン氏は、「より速い移動を求めるならば、コンピュータアシストの力を借りるか、または薬剤を使ったり、最終的には移植を行うことによって、ヒトの視覚システムの強化を測る必要があるでしょう」と語っています。