最初に目覚めるのは「前頭前野」と判明、その理由とは?
本研究では、60名の健康な成人男女を対象に、半分を3時間の麻酔にかけたグループ(実験群)、もう半分を麻酔にかけなかったグループ(対照群)として、脳が意識を取り戻すプロセスを調査。
その結果、一番最初に覚醒する脳領域は「前頭前野」でした。
脳波検査のデータ分析では、脳が回復し始めると、まず抽象的な問題解決力や記憶力、運動制御などを担う前頭前野が特に活発になることが示されています。
前頭前野は、ヒトで最もよく発達した脳領域であり、認知・実行、情動・動機づけなど多様な機能にかかわります。
一方で、反応速度や注意力をつかさどる他の脳領域は、覚醒により時間がかかっていました。
ペンシルバニア大学の麻酔科医、マックス・ケルツ氏は「最初は驚きましたが、高次の認知機能が早期に回復する必要があることは、進化論的に理にかなっている」と指摘。
「例えば、何らかの脅威がきっかけで目覚めた場合、前頭前野は、周囲の状況を分類して行動計画を立てるのに重要な役割を果たすでしょう」と説明します。
また、対照群との比較では、麻酔をかけた実験群は、脳が完全に回復するまでに約3時間かかりました。
それから、実験後の数日間にわたり、被験者の睡眠状態を追跡したところ、睡眠パターンに麻酔の悪影響は見られなかったとのことです。
ワシントン大学の麻酔科医、マイケル・アヴィダン氏は「この結果は、深い麻酔に長時間さらされても、脳には元の状態まで回復する力があることを示します。
とすると、麻酔や手術からの回復期(数日〜数週間)に多く見られる認知障害(せん妄など)の一部は、麻酔薬の残効性以外の要因に起因するのかもしれない」と述べました。
外科手術の多くは、麻酔なしでは不可能です。
麻酔薬は広く普及していますが、その安全な使用法は分かっていても、麻酔薬の作用が正確に理解されているわけではありません。
ミシガン大学のジョージ・マシュー氏は「今回の研究成果は、治療や患者のケア(例えば、麻酔を伴う大手術の後)に役立ちます。
さらに、無意識状態から脳がいかに回復するかを知ることは、臨床的に重要であるだけでなく、意識そのものの神経基盤についての理解も深めてくれるでしょう」と話しました。