アリに寄生した菌類の最古の化石
この琥珀はヨーロッパのバルト海地域で採取されたもので、中に保存されていたオオアリは約5000万年前の個体と判明しています。
オオアリ属は一般に、樹木や腐った丸太、切り株などに巣を作るため、樹液に囚われて琥珀化することが珍しくありません。
また、オオアリ属は菌類の宿主になりやすく、特に、オフィオコルディケプス属(Ophiocordyceps)という菌類によく寄生されます。
その内の1種は、アリが死ぬ直前に植物を噛むように仕向けます。
そうすることで、アリの頭や首からカップ状のアスコーマ(菌の子実体)を突き出して、菌の胞子が放出されやすい状態になるという。
一方で、琥珀中に見つかった菌類は、オフィオコルディケプス属とは違っていました。
オフィオコルディケプス属はアスコーマをアリの頭か首から突き出しますが、これはお尻(直腸)から出ているためです。
調査の結果、この菌類は、子嚢菌門(しのうきんもん、Ascomycota)のボタンタケ目(Hypocreales)に属していました。
しかし、属・種はどれにも当てはまらず、未記載のグループであることが判明しています。
そこで研究主任のジョージ・ポイナー・ジュニア氏とイヴェス=マリ・マルティエ氏は、ギリシャ語で「新しい」を意味する「alloios」と、既知の属であるノムシタケ属(Cordyceps)を組み合わせ、新種を「アロコルディケプス・バルチカ(Allocordyceps baltica、バルト海の新ノムシタケ)」と命名しました。
ポイナー氏は、新種について「オレンジ色の大きなカップ状のアスコーマと、胞子を外に出すためのフラスコ状の構造物である子嚢殻(しのうかく)が、アリの直腸から突き出ています。
菌の成長部分が腹部と首の付け根から出ており、他の菌類にはない発生段階が見られました」と説明します。
また「この標本は、アリから発生したボタンタケ目の最初の例であると同時に、アリに寄生した菌類の最古の化石記録でもあります。
アリは多くの寄生生物の宿主であり、その中には、発育や拡散に有利なようにアリの行動を操作するものもいます。
本研究の成果は、今後の研究で、アリと菌類の寄生関係の起源を解き明かす貴重な資料となるでしょう」と述べています。