心拍数は「1分間に11回」を記録!
研究主任のエリカ・シャガタイ氏は、30年にわたってフリーダイバーの生理学を研究してきました。
氏は「これまではラボ内での模擬潜水でメインにしていたため、実際の海で100メートル以上の深さまで潜った時に、ダイバーの脳や循環器系にどのような影響があるのか、正確に理解できていませんでした。
ダイバーは、深く潜水するにつれて体内の酸素がなくなり、意識を失うブラックアウト状態に陥る危険性があります。
本調査の目的のひとつは、ブラックアウトが差し迫っていることをダイバーや安全管理者に知らせる、体内計測法を確立することでした」と話します。
そこで研究チームは、発光LEDを皮膚に貼り付けて、ダイバーの心拍数、血液量、脳内酸素濃度を測定するスマートウォッチ式のシステムを開発しました。
このウェアラブルシステムは、水深が100メートル以上に達しても、ダイバーの生理機能を安定的に測定できます。
チームは、世界トップクラスのダイバーに協力を要請し、潜水中の体内状態の変化を記録。ダイバーは一息で4分以上の潜水を行い、水深107メートルまで達しました。
計測の結果、ダイバーは常人ではありえない驚異的な生理的反応を示しています。
なんと心拍数は1分間に11回という低さに達していました。一般人の平均心拍数が1分間に60〜70回であることを考えると奇跡的な数値です。
さらに、通常98%の酸素が供給されている血液中の酸素濃度は25%にまで低下しており、人間が意識を失うとされる50%をはるかに超えています。
脳内の酸素濃度はアザラシの平均的な数値よりも低く、心拍数は潜水中のクジラやイルカに匹敵するものでした。
こちらが試験の様子。
同チームのクリス・マックナイト氏は「この新知見は、フリーダイビングの安全性を高めるだけでなく、心臓病患者の新たな治療法の発見にもつながる」と指摘。
「フリーダイバーがいかにして極低酸素状態に耐え、脳への酸素供給を調整するかを解明することで、外科手術中の脳や心臓の保護の改善が期待できるでしょう」と述べています。
一体、人体はどれほどの極限状態まで耐えられるのでしょうか。