マウスがテカテカ光っていた
上林氏は、実験のことを次のように思い出して語っています。
「TSLPで治療したマウスを見ると、なんだかテカテカ光っていたのです。
他のマウスよりはるかに光沢があったので、どのマウスが治療したマウスなのか、いつも見ただけで判断できました」
マウスの毛がテカテカと脂っこく光っている。
これはマウスが皮膚から脂肪を発汗させているのではないか? と疑った上林氏の研究チームはマウスの毛を剃って、分泌された成分を分析してみました。
結果、テカテカと光沢のあったマウスの毛皮からは、皮脂特有の脂質が検出されました。
つまり、この肥満マウスは体の脂肪を、皮脂として毛穴から排出することで痩せていたのです。
しかし、なぜ免疫系の研究から、マウスが脂肪を発汗で排出するなどということになったのでしょうか?
皮脂とは、皮脂腺の皮脂細胞によって生成される物質です。
皮脂の役割は皮膚の抗菌防御で、いわば「皮膚のバリア」です。
これを制御するのは免疫系のT細胞であり、T細胞の数はTSLPの作用によって制御されています。
つまり、TSLPが促進されたマウス体内では、T細胞が増加することで、皮膚のバリア機能が増強され、白色脂肪を大量消費して皮脂を過剰分泌する状態になっていたのです。
この意外なメカニズムによって、免疫応答を促進するサイトカイン「TSLP」によって、肥満が解消されていました。
これは、将来的に肥満治療の新しい方法として役立つ可能性があります。
食事量を制限することもなく、激しい運動をすることもなく、薬で痩せられるということが本当に実現できるかもしれないのです。
これは多くの人にとって、嬉しいニュースかもしれません。
ただ、副作用で体の表面が皮脂で体がギットギトになるかもしれませんが…。