脳を磁気で刺激して快楽を発生させる
禁煙にとっての最大の敵はニコチン依存症です。
ニコチンには肺から吸収されるとわずか15秒で脳に達し、快楽物質であるドーパミンの分泌を促し、脳を気持ちよくする効果があります。
ニコチンを絶つと、この気持ちよくなる効果が急に失われるために、イライラをはじめとした禁断症状が現れるようになります。
つまり禁煙とは、脳の快楽システム(報酬系)との闘いでもあるのです。
ですが残念なことに、多くの人はこの勝負には勝てません。
喫煙者の75%が禁煙を試みた経験を持っていますが、快楽を倒すにはおよばず再び喫煙者となってしまうのです。
そこで近年、研究者たちは禁煙という「快楽との闘い」に新たな兵器(rTMS:反復経頭蓋磁気刺激法)を導入しはじめました。
rTMSでは磁気を脳に向けて放つことで、脳内で微弱な「電流の渦」を生じさせ、特定の脳の領域を活性化させたり、抑制することが可能になります。
今回、台湾の国立中山大学の研究者たちは、近年行われているrTMSを用いた禁煙治療の結果をまとめ、最も効果的な治療部位を探し出すことにしました。
結果、禁煙はうつ病の治療と同じく、左オデコの内側にある左・背外側前頭前野(はいがいそく ぜんとうぜんや:DLPFC)という領域を活性化させると、最も効果的であると判明します。
DLPFCはサルから人間に進化した時に最も複雑になったとされる脳領域であり、やる気や集中力を発揮する際に活性化します。
DLPFCを磁気で刺激すると、快楽物質であるドーパミンが分泌され、脳は快楽を感じることが知られています(特にうつ病においては、左側のDLPFCを磁気刺激で活性化させることが重要だとされています)。
研究者たちは、この磁気刺激による快楽が、ニコチン切れに陥っている脳の苦痛を相殺すると結論付けました。
つまり快楽を我慢し続けて禁断症状を乗り切るのではなく、新たな快楽を脳に与えることで、ニコチン切れによる苦痛を忘れさせるという戦略です。