記憶はウイルスにソックリな粒子によって運ばれていた
線虫たちの学習記憶は何によって運ばれたのか?
謎を解明するため研究者たちは、破砕液を遠心分離機を使って密度別に分類し、記憶転送が行われる区画を探索しました。
すると、特定の区画を加えたときのみ記憶転送が再現されることが判明。
区画の分析を続けたところ、大きさが90nmほどの粒子が特定されました。
またその粒子は外部がタンパク質で覆われており、内部には遺伝物質になりえるRNAを含む、ウイルスのような構造をもつことも判明します。
さらに研究者たちの1人が、このウイルスのような構造が、線虫のDNAに潜む「レトロトランスポゾンのCer1」が作る粒子に非常に類似していることに気付きました。
レトロトランスポゾンとはDNAに含まれる「特定パターンの繰り返し配列」であり、DNAの内部を勝手に飛び回りながら増殖するというウイルスに似た遺伝要素を持つ、非生命・非ウイルスの配列情報です。
またレトロトランスポゾンの中には、タンパク質の殻を作って内部に遺伝情報を封入し、他の細胞へ遺伝情報を侵入させるといった、よりウイルス的な性質を持つものも知られています。
そこで研究者たちはDNAから「Cer1」を取り除いた線虫を用意し、同じような緑膿菌を用いた学習を行わせた後に、破砕して他の線虫にふりかけました。
結果、記憶転送だけでなく子孫への記憶遺伝も起こらなくなっていることが判明します。
この結果は、トランスポゾン「Cer1」が作るウイルス様粒子が、線虫における記憶の水平伝播(個体から個体)だけでなく、垂直伝播(親から子)にもかかわっていることを示します。