学習記憶の水平伝播は種を超えるのだろうか?
今回の研究により、線虫における個体間の記憶転送が、ウイルス様粒子に依存していることが示されました。
研究者たちはウイルス様粒子の内部に含まれるRNAが、記憶の情報(緑膿菌を食べたらダメ)を持っている可能性があると考えています。
また追加の実験で、線虫の体を破砕せずに、周囲の水を与えた場合にも記憶転送が起こりえることも示されました。
この結果は、緑膿菌にかかわる学習を行った線虫の体からは「緑膿菌を食べてはダメ」という情報を含んだウイルス様粒子が放出され、周囲の個体と知識を共有している可能性を示します。
また「Cer1」の欠損が記憶の遺伝を妨げたことから、ウイルス様粒子は線虫の生殖細胞にも記憶の内容を伝達している可能性があります。
研究者たちは今後、記憶の転送と遺伝における、ウイルスやウイルス様粒子の役割を調べていくとのこと。
哺乳類の胎盤獲得のように、進化においてウイルスはある生命体から別の生命体に情報を運ぶ役割をする、生命体全員が共有する、遺伝情報の銀行のような役割を果たしていることが明らかになってきました。
もしウイルスやウイルス様粒子の扱う情報が遺伝情報だけではなく、個体の学習記憶も含んでいるのが事実ならば、生命や情報という概念そのものが大きく変わるかもしれません。