世界の電力網に起こる、想像を超えた負荷
私たちが何気なく照明のスイッチを入れるとき、その背後では驚くほど繊細なバランスが保たれています。
電力は貯めておいて使うものではなく、「必要なときに、必要なだけ」供給されるべきエネルギーです。
電気は、石炭や天然ガス、原子力、水力、風力、太陽光など、さまざまな方法で発電されます。
発電所で作られた電気は、送電線を通じて家庭やビル、工場へと運ばれていきます。
これが「送電網(パワーグリッド)」と呼ばれるシステムです。
この送電網では、需要と供給が秒単位で一致していなければなりません。
誰かが照明をつければ、その瞬間にどこかの発電機がその分の電力を供給しなければならないのです。
もしこのバランスが崩れると、停電やブラックアウトといった重大なトラブルが発生してしまいます。

では、もし全人類が一斉に照明をつけたらどうなるのでしょう?
当然、電力需要は爆発的に跳ね上がります。
発電所はそれに対応して即座に出力を増やす必要がありますが、これには限界があります。
たとえば石炭火力や原子力発電は、出力が大きい反面、起動や調整に時間がかかります。
一方、天然ガスを使った発電所は比較的すばやく反応できますが、供給量には制約があります。
再生可能エネルギーはというと、太陽光や風力は自然条件に左右されるため、瞬間的な需要に柔軟に対応することは難しいです。
このような急激な電力需要の増加は、送電網の制御システムにとって大きな試練となります。
電力系統運用者は、膨大なセンサーとコンピューターを使って常に需要を予測し、安定化を図っていますが、「世界中の照明一斉点灯」という極端な事態には、対応しきれない可能性があります。
ただし、ここで救いとなるのが2つの要因です。
まず、地球上には「単一の世界規模の送電網」は存在しません。
各国・各地域ごとに独立した電力網があり、たとえある地域で大規模な停電が起きても、他の地域に波及するとは限らないのです。
そしてもうひとつは、LED(発光ダイオード)照明の普及です。
LEDは従来の電球に比べて非常に効率がよく、少ない電力で多くの光を生み出します。
アメリカでは2020年時点で、家庭の約半数がLEDを主要な照明に使っており、年間約225ドルの節電効果があると報告されています。
つまり、同時に明かりをつけたとしても、消費される電力はかつてよりはるかに少なくなっているのです。