恐竜の歯に刻まれた「空気の記憶」
研究チームが注目したのは、恐竜の歯のエナメル質に残された“酸素の痕跡”でした。
私たちが普段吸っている空気には酸素が含まれていますが、実はその酸素には種類があります。
質量の異なる「酸素16」「酸素17」「酸素18」といった“同位体”と呼ばれるバリエーションです。
そして空気中のこれらの酸素のバランスは、環境によって微妙に変化します。
たとえば火山活動が活発な時期は、空気中のCO₂濃度が急に上がり、酸素の同位体バランスにも変化が生じます。
動物がその空気を吸って生きていた場合、その変化が体内に取り込まれ、歯や骨にわずかに記録されるのです。

研究チームは、この“酸素17の異常値”に注目しました。
現代の動物で検証を行い、この値が当時の大気中のCO₂濃度を反映していることを確認したうえで、恐竜の歯の化石へと応用しました。
測定には、ヨーロッパ各地の博物館に収蔵されていたティラノサウルス・レックスや草食恐竜カアテドクスなどの歯の標本を使用。
すでに他の目的で採取されていたエナメル質の粉末を用い、酸素同位体の比率を精密に測定しました。
その結果、恐竜が生きていたジュラ紀や白亜紀には、地球の大気中のCO₂濃度が現在よりもはるかに高かったことが明らかになったのです。