殻をすてた、海の巻貝のなかま。
食べた相手の毒針や葉緑体まで、自分の力にする。
- ナゾロジーの記事
- 21本
- 裸鰓類(典型的なウミウシ)の種の数
- 約3000種
- 日本の近くの海のウミウシ
- 約1400種
ウミウシは、殻が小さくなったり、なくなったりした海の巻貝のなかまの呼び名です。世界中の海にすみ、日本の近くの海だけで約1400種がいるとされます。あざやかな色の種が多く、食べた相手の毒針や葉緑体を自分の体で使うものもいます。
図鑑データ
- 分類
- 軟体動物 › 腹足類(巻貝)› かつての後鰓類のうち、殻が小さいかないもの。1つの分類群の名前ではない
- おもななかま
- 裸鰓類(典型的なウミウシ)、嚢舌類、側鰓類など。アメフラシ(無楯類)をふくめることもある
- 学名
- Nudibranchia(裸鰓目。典型的なウミウシのグループ)
- 英名
- sea slug(シースラッグ)。裸鰓類は nudibranch
- 漢字
- 海牛(「かいぎゅう」と読むと、ジュゴンなどの海牛目を指すのがふつう)
- 種の数
- 裸鰓類だけで世界に約3000種。日本の近くの海には約1400種のウミウシがいるとされる
- 大きさ
- 多くは体長数mm〜20〜30cm。アメフラシのなかまには75cmになる種もいる
- 体のつくり
- 多くは頭に1対の触角。多くは背中に花のようなえらか、ミノ(突起)をもつ(えらのないなかまもいる)。おとなの裸鰓類は殻をもたない
- すみか
- 世界中の海。多くは海底をはって暮らす。海面や深海の海中で暮らす種もいる
- 食べもの
- 裸鰓類の多くは肉食(海綿、刺胞動物、コケムシ、ホヤなど)。アメフラシや嚢舌類のほとんどは海藻などを食べる
- 増え方
- 雌雄同体。ふつうは2匹で交尾して、リボンのような卵塊を産む。幼生は殻をもつ
- 寿命
- 裸鰓類の多くは数週間〜1年ほど(種による)。アメフラシは1〜2年
ウミウシとは(何の仲間? 何類?)
ウミウシは、海にすむ巻貝のなかまのうち、貝殻が小さくなったり、体の中にうもれたり、なくなったりしたものをまとめた呼び名です。巻貝は「腹足類(ふくそくるい)」という軟体動物のグループで、陸にすむカタツムリやナメクジも腹足類なので、ウミウシとカタツムリは遠い親せきです。殻を小さくしたりなくしたりする進化は、海のウミウシと陸のナメクジのように、別々のなかまでくり返し起きました。
「ウミウシ」は毎日の暮らしで使う呼び名で、生き物の分類の決まった1つのグループの名前ではありません。いちばん典型的なウミウシとされるのは「裸鰓類(らさいるい)」のなかまで、ウミウシといえば裸鰓類のこと、とされることもあります。ウミウシをふくむこれらのなかまは、以前は「後鰓類(こうさいるい)」という1つのグループにまとめられていました。しかし今では、後鰓類は自然なまとまりではないと考えられ、分類の見直しが続いています。
英語では sea slug(シースラッグ、「海のナメクジ」)と呼ばれます。裸鰓類は英語で nudibranch といい、ラテン語の「はだかの」と古代ギリシャ語の「えら」を合わせた言葉です。
ウミウシの種類(何種類いる?)
ウミウシと呼ばれる生き物は、いくつものなかまに分かれています。
- 裸鰓類:典型的なウミウシで、世界に約3000種が知られています。背中に花のようなえらをもつ「ドーリス類」と、背中にミノ(突起)がならぶ「ミノウミウシ類」などに分かれます。アオウミウシやアオミノウミウシも裸鰓類です。
- 嚢舌類(のうぜつるい):数百種からなるなかまで、多くは体長数mmから5cmほどです。藻類を食べ、なかには食べた藻類の葉緑体を使って光合成するものもいます。コノハミドリガイなどがふくまれます。
- 側鰓類(そくさいるい)など:体の横にえらをもつウミフクロウのなかまなども、ウミウシにふくまれます。頭楯類(とうじゅんるい)のカノコキセワタのなかまや、ウミコチョウのなかまのように、殻が体の中にあるかなくなったものもウミウシと呼ばれます。
日本の近くの海だけでも、約1400種のウミウシがすんでいるとされます。

アメフラシやクリオネもウミウシ?
どこまでをウミウシと呼ぶかは、人や地域によってちがいます。アメフラシは、背中の皮ふ(外套膜)の中にうすい板のような殻をもつ「無楯類(むじゅんるい)」のなかまで、英語では sea hare(海のウサギ)と呼ばれます。ウミウシにふくめることもあれば、別のものとしてあつかうこともあり、アメフラシを「ウミウシ」と呼ぶ地域もあります。この図鑑では、アメフラシも「ウミウシに数えられることの多い親せき」として、いっしょに紹介します。
一方、翼のようなひれで泳ぐクリオネ(ハダカカメガイ)のなかま(裸殻翼足類)も殻をなくした巻貝ですが、ふつうはウミウシにふくめません。
大きさと体のつくり(特徴は? 何センチ?)
ウミウシの体長は、多くが数mmから20〜30cmほどです。小さなものでは、2026年に台湾で新種として発表された Thecacera sesama(テカセラ・セサマ)が、体長3mm未満しかありません。大きなものでは、ミカドウミウシのなかまの Hexabranchus sanguineus が、ふつう最大25cmほどになり、紅海では40cmという報告もあります。

アメフラシのなかまは、さらに大きくなります。日本の沿岸のアメフラシは多くが15cmほどで、大きいものは30cmをこえます。北アメリカの西海岸にすむ Aplysia vaccaria は、体長75cm、体重14kgにもなり、いちばん大きな巻貝ともいわれます。
- 触角:多くのウミウシは、頭に1対の触角をもっています。おもに、においを感じるための器官です。アメフラシは、ほんのかすかなにおいも触角でたどることができます。
- 目:目はとても小さく、触角の根もと近くの体の中にうもれています。裸鰓類の目は、レンズと少しの光を感じる細胞からできた簡単なつくりで、明るいか暗いかがわかる程度とされます。
- えら:ドーリス類は、背中の後ろのほう(肛門のまわり)に、羽のような形のえらが輪になってならび、花のように見えます。「はだかのえら」という裸鰓類の名前は、このむき出しのえらからきています。
- ミノ(背側突起):ミノウミウシ類は、えらの代わりに、背中にトゲトゲした突起「ミノ(セラタ)」がたくさんならびます。ミノの表面でも呼吸をしていて、中には枝分かれした消化腺(消化のための器官)がのびていることがあります。
- 口と歯舌:口の中には、ほかの巻貝と同じように、小さな歯がならんだ「歯舌(しぜつ)」をもつものが多くいます。
- 殻:おとなのウミウシ(裸鰓類)は、殻もふたももちません。ただし、生まれたばかりの幼生は、巻貝のようなうず巻きの殻をもっています。
体の形は、平たいもの、細長いもの、突起だらけのものなど、種によってさまざまです。体の多くは半透明で、少しすき通って見えます。裸鰓類では、オスとメスの生殖器の出入り口が体の右側にあり、左右非対称だった祖先のなごりと考えられています。

脳はある?(アメフラシと記憶の研究)
ウミウシにも脳があります。たとえば、アメフラシのなかまのジャンボアメフラシ(Aplysia californica)の神経系は、約2万個の神経細胞でできています。
アメフラシの神経細胞には、細胞体の直径が200〜1000μmにもなる大きなものがあり、神経のつながりも単純です。そのため、神経のしくみを調べる研究の「モデル生物」として使われてきました。危険を感じるとえらを引っこめ、刺激に慣れると引っこめなくなる反射は、記憶と学習の研究に役立ちました。アメリカのエリック・カンデルは、アメフラシを使って、神経細胞のつなぎ目(シナプス)が変わることで記憶ができるしくみを明らかにし、2000年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
2018年には、ジャンボアメフラシの「記憶」を、RNAという物質で別の個体に移せたという研究が発表されました。研究チームは、尾に電気ショックをあたえて、刺激に敏感になるように訓練しました。訓練したアメフラシは、水管という部分を軽くつつかれると、平均56.4秒も水管を引っこめたままにしました(訓練しないアメフラシでは平均1.2秒)。この訓練したアメフラシの神経からRNAを取り出して、訓練していないアメフラシに注射すると、約24時間後には、引っこめている時間が平均38.0秒にのびました(訓練していないアメフラシのRNAを注射した場合は平均5.4秒)。研究チームは、訓練でできた長い記憶の一部が、RNAによって移ったと考えています。
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コンピューターの中にウミウシをつくる研究もあります。アメリカのイリノイ大学の研究チームは、肉食のウミウシ Pleurobranchaea californica がえさを選ぶときの神経のしくみをもとに、仮想の生き物「ASIMOV(アシモフ)」をつくりました。2020年の報告では、栄養はないのに大きな「ごほうび」をくれる、薬のようなえさをあたえると、依存症に似た状態が生まれました。
どこにいる?(日本で見られる所)
ウミウシは、北極の海から熱帯、南極のまわりの海まで、世界中の海にすんでいます。ほとんどが海水にすみ、塩分のうすい汽水にすむ種は少しだけです。波打ちぎわから水深700mより深い海まで見られますが、種類がいちばん多いのは、あたたかい海の浅い礁(サンゴ礁など)です。
ウミウシの多くは、海底や岩の上をはって暮らしています。そのなかで、アオミノウミウシのなかまは、海面のすぐ下にさかさまに浮かんで暮らします。2024年には、アメリカのモントレー湾の沖で、水深1000〜4000mの深海の海中をただよって泳ぐウミウシ Bathydevius caudactylus が、新しい種として発表されました。深海の海中で暮らすことが知られた、初めてのウミウシです。体はすき通っていて、大きなフードのような部分で甲殻類をとらえて食べ、おそわれそうになると光ります。
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日本では(どこで見られる?)
日本の近くの海には、約1400種のウミウシがすんでいるとされ、高知県の竜串湾だけでも384種が知られています。鳥取県東部の沿岸とそのまわりで、2018年と2019年を中心に行われた調査では、134種のウミウシ類が確認されました。この調査では、磯での採集のほか、スノーケリングやスキューバダイビングでウミウシを探しました。
浅い海にすむ種も多く、たとえば嚢舌類の多くは水深20mより浅い所にすみ、潮だまり(タイドプール)などでも観察できます。日本でいちばん有名なウミウシの一つ、アオウミウシは、北海道から九州にかけての沿岸の浅い所にすんでいます。コノハミドリガイは、青森県の艫作崎(へなしざき)より南と、相模湾より西で見られます。
何を食べる?(共食いもする?)
典型的なウミウシである裸鰓類の多くは、動物を食べる肉食です。食べるものは種ごとに決まっていることが多く、海綿動物(カイメン)を食べるもの、ヒドロ虫やイソギンチャクなどの刺胞動物を食べるもの、コケムシ、ホヤ、フジツボを食べるものなどがいます。アオミノウミウシのように、カツオノエボシなどの毒をもつクラゲのなかまを食べるものもいます。メリベウミウシのなかまは、小さなエビのような甲殻類を、頭の大きなフードでとらえて食べます。
ほかのウミウシやその卵を食べるものもいます。同じ種のなかまを食べる、共食いが見られることもあります。

一方、アメフラシのなかまや嚢舌類は、ほとんどが海藻などを食べる草食です。嚢舌類は、一列にならんだ歯舌で藻類の細胞のかべに穴をあけ、中身を吸いとって食べます。使ってすりへった歯を「舌嚢(ぜつのう)」という袋にためておくのが、嚢舌類の大きな特徴です。
飼うのはむずかしい?
ウミウシは集めるのは簡単でも、飼うのはむずかしいことが多い生き物です。多くの種は食べるものが限られていて、えさになる生き物を海で見分けて集めるのが大変だからです。卵から育てるのはさらにむずかしく、プランクトンとして泳ぐ幼生を育てる工夫や、幼生のえさになる植物プランクトンも必要です。
2024年には、筑波大学下田臨海実験センターの研究チームが、アオウミウシを卵からおとなまで育てたと発表しました。アオウミウシがふくまれるイロウミウシ科で、実験室の中で子どもからおとなまで育てた報告は、それまでありませんでした。ふ化から約36日で体の色があらわれ、42日以内に大事な器官ができはじめ、ふ化から6か月でおとなになって、交尾と産卵もしました。
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なぜカラフル?(色と毒の話)
ウミウシは、進化の中で殻をなくしたかわりに、別の身の守り方を発達させてきました。えさの海綿などにそっくりな色や形で、まわりにとけこむ種がいます。反対に、とても派手な色で目立つ種もいます。
派手な色は、「自分を食べるとまずい(危ない)」と敵に知らせる警告の色(警戒色)だと考えられてきました。ただし、夜に活動する種やかくれて暮らす種も多いことや、赤っぽい色は水が深くなるとすぐに見えにくくなることなどから、反対の意見もあります。熱帯のサンゴ礁などでは、派手な色がかえってまわりにまぎれる役に立つともいわれます。
多くのウミウシは、えさの海綿などからとりこんだ化学物質を体にためて、敵にとって「まずい」体になっています。えさにたよらず、自分で防御用の物質をつくる種もいます。
色は「ピクセル」でできていた
2026年に発表された研究では、ウミウシのあざやかな色の多くが、色素ではなく、「グアニン」という物質の小さな板が何層にも重なった構造でつくられる「構造色」だとわかりました。この構造はドーリス類にもミノウミウシ類にも広く見られ、アンナウミウシ(Chromodoris annae)の強い青もこの構造によるものです。小さな構造の一つひとつが、画面の画素(ピクセル)のように決まった色の光をはね返し、その組み合わせで全体の色が決まります。見る角度を変えても、色があまり変わらないのも特徴です。

ナゾロジーでくわしくウミウシの色彩は「構造色」だったと判明
目立つウミウシに「化ける」生き物もいます。2024年には、ベトナムと日本のソフトコーラル(八放サンゴのなかま)の上で暮らす、ウミウシにそっくりな色と形のゴカイが、新しい属・新しい種として報告されました。ゴカイのなかまで、このような擬態が見つかったのは初めてです。
ウミウシには毒がある?
毒のある生き物を食べて、その毒を体にためている種が多く、多くのウミウシは食べるのに向きません。とくにアオミノウミウシのなかまは、食べたクラゲのなかまの毒針(刺胞)をためているため、素手でさわると刺されることがあり、危険です。2017年2月には、オーストラリアのクイーンズランド州の沿岸でタイヘイヨウアオミノウミウシが大発生し、さわったサーファーや海水浴客63人が刺されたと報じられています。ウミウシを見つけても、素手でさわらずに観察しましょう。
光るウミウシ
光を出す(生物発光する)ウミウシもいます。コノハウミウシやヒカリウミウシは、点滅する光を出します。本州中部より南の沿岸で見つかる大型のハナデンシャ(花電車)は、刺激を受けると青白く光ります。体長10〜15cmで、あざやかな赤や黄色の斑点をもち、その姿から、パレード用に電飾をつけた路面電車「花電車」の名がつきました。ただし、ウミウシなどの巻貝のなかまで光るものはめずらしく、深海の Bathydevius の発光は、裸鰓類で3回目に独立して進化したものとされています。
食べた相手の力を使う(盗刺胞・盗葉緑体・再生)
毒針をぬすむ「盗刺胞」
イソギンチャクやヒドロ虫などの刺胞動物を食べるミノウミウシ類の多くは、えものの毒針(刺胞)をこわさずに体にとりこみ、背中のミノの先にある「刺胞のう」という袋にためます。そして、敵におそわれると、ためた刺胞を出して身を守ります。このように、えものの刺胞を自分のものにして使うことを「盗刺胞(とうしほう)」といいます。
アオミノウミウシ(Glaucus atlanticus)は、体長20〜50mmほどのミノウミウシのなかまです。胃に空気をためて、海面のすぐ下にさかさまに浮かんで暮らしています。上を向いたおなか側は青く、下を向いた背中側は銀色がかった灰色なので、まわりの海にまぎれます。カツオノエボシやギンカクラゲなど、海面をただよう刺胞動物を好んで食べ、その刺胞をミノにためています。

2025年に発表された研究では、神奈川県の片瀬西浜などで集めたアオミノウミウシを飼育したところ、いちばん前のミノを「手」のように使って、生きたカタクチイワシの子ども(シラス)をつかまえて食べることがわかりました。クラゲのなかまをとらえるときも、同じようにミノを使っていました。ミノは身を守るためだけでなく、えものをつかまえるのにも役立っていたのです。
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葉緑体をぬすんで光合成する「盗葉緑体」
嚢舌類の一部は、食べた藻類の葉緑体(光合成をする細胞の中の器官)だけを消化せずに、自分の消化管の細胞にとりこみ、しばらく光合成をさせて栄養を得ます。これを「盗葉緑体(とうようりょくたい)現象」といいます。エリシア・クロロティカ(Elysia chlorotica)では、とりこんだ葉緑体を最長で約10か月保っていた記録があります。
ふしぎなのは、葉緑体が光合成に使うタンパク質の多くが、もとは藻類の核の遺伝子からつくられていることです。そこで、「ウミウシは藻類の遺伝子を自分の遺伝子にとりこんだのでは」という説が議論されてきました。2021年に発表された研究では、沖縄島で集めたチドリミドリガイ(Plakobranchus ocellatus)のゲノム(全遺伝情報)を調べ、光合成のための遺伝子がウミウシの核に見つからないことを示しました。それでも、えさがないときに光を当てると、長く生きられることが確かめられました。また、タンパク質の分解や免疫にかかわる遺伝子のなかまがふえていて、葉緑体の多い組織ではその遺伝子の発現量が高くなっていました。
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2025年には、エリシア・クリスパタ(Elysia crispata)などを調べた研究で、ぬすんだ葉緑体を細胞の中で包む、ウミウシ自身がつくった袋のような器官が見つかり、「クレプトソーム」と名づけられました。クレプトソームは、葉緑体が光合成を続けて長もちできる環境を保ちます。えさがなくなると、ウミウシはクレプトソームの中の葉緑体を消化して栄養にします。えさをあたえない実験では、エリシアは4週間ほどで緑色からオレンジ色に変わって光合成をやめましたが、最長4か月生きのびました。光合成をしないジャンボアメフラシは、えさがないと3〜4週間で死にました。
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頭だけになっても体をつくり直す(自切と再生)
背中に突起をもつミノウミウシやムカデメリベなどには、刺激を受けると突起を切りはなす(自切する)ものがいます。深海の Bathydevius は、光る突起を切りはなして、敵の注意をそらすおとりにすると考えられています。ウミウシの体には、失った部分をつくり直す再生の力があります。
2021年には、奈良女子大学の研究チームが、もっと大がかりな自切を報告しました。嚢舌類のコノハミドリガイ(Elysia marginata)とクロミドリガイ(Elysia atroviridis)が、首のところで頭を自分で切りはなし、心臓をふくむ体を丸ごと再生したのです。観察した個体のうち、コノハミドリガイは15匹中5匹、クロミドリガイは82匹中3匹が頭を切りはなしました。頭はすぐに動きだし、数日のうちに首の傷がふさがって、藻類を食べはじめました。1週間ほどで心臓の再生がはじまり、1か月たたないうちに、多くが新しい体をとりもどしました。切りはなされた体のほうから、頭が再生することはありませんでした。
クロミドリガイでは、繁殖をさまたげるカイアシ類という小さな甲殻類に寄生された個体で、頭の切りはなしが見られました。寄生されていないクロミドリガイ64匹では、頭を切りはなした例はありませんでした。研究チームは、寄生者を体ごとすてている可能性を考えています。頭だけの時期を生きのびるのに、盗葉緑体の光合成が役立っている可能性もあります。

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増え方と寿命(卵・幼生)
ウミウシは、1匹がオスとメスの両方の生殖器をもつ「雌雄同体(しゆうどうたい)」です。ただし、裸鰓類は自分だけで受精することはできず、2匹が交尾して受精します。交尾はふつう数分で、ダンスのような求愛をともないます。
卵は、ゼリー状のリボンのような卵塊にまとめて産みつけられ、うず巻きの形をしていることが多いです。

卵からかえった子ども(幼生)は「ベリジャー幼生」と呼ばれ、巻貝のようなうず巻きの殻をもっていて、プランクトンとして海の中をただよいます。やがて海底で暮らすようになると「変態」して殻をすて、おとなと同じ形になります。アオウミウシの飼育では、卵は産まれてから約6日でかえりました。卵の中で育ち、殻をすててから卵塊を出てくる種もいます。
裸鰓類の寿命は、多くは数週間から1年ほどです(種によってちがいます)。アオミノウミウシは、条件がよければ1年ほど生きます。
アメフラシの「連鎖交尾」と「海素麺」
アメフラシは、春から夏にかけて、繁殖のために磯にあらわれます。前の個体のメスの生殖器に、後ろの個体がオスの生殖器を入れる形で、何匹もつながって交尾することがあり、「連鎖交尾」と呼ばれます。ジャンボアメフラシでは、最大20匹がつながった例があります。
卵は黄色い細長い麺のような卵のかたまりになり、「海素麺(うみぞうめん)」と呼ばれます。産む卵の数は、種や個体によって大きくちがいます。卵は約2週間でかえり、プランクトンとして泳いだあと、海底で暮らすようになります。アメフラシの寿命は1〜2年です。

名前の由来と人とのかかわり
ウミウシという名前は、ドーリス類の頭に、ウシの角のような1対の触角があることからついたといわれます。漢字では「海牛」と書きますが、「海牛」は「かいぎゅう」とも読み、ふつうはジュゴンやマナティーなどの哺乳類(海牛目)を指します。小笠原諸島では、触角をネコの耳に見立てて「ウミネコ」と呼ぶこともあります。
アメフラシの名前は、海の中で紫色の液を出すと、雨雲が広がったように見えることからといわれます。産卵のために磯にあらわれる時期が梅雨と重なるため、という説もあります。紫色の液は、敵の目くらましになったり、まずい味で身を守ったりするためと考えられています。
ウミウシには、あざやかで派手な種が多く、見て楽しむ生き物として人気があります。ウデフリツノザヤウミウシは、そのすがたから「ピカチュウウミウシ」の愛称で親しまれ、日本でウミウシを観察するダイビングが広まるきっかけの一つになりました。ゴマフビロードウミウシは、ウサギのように見えることから、2015年に日本のツイッターで人気が高まりました。

ウミウシは、ふつうは食用にしません。ただし、島根県の隠岐などでは、アメフラシを「ベコ」と呼んで食べる地域があります。昭和天皇は、採集したアメフラシを甘辛く煮て、ためしに食べたことがあると伝えられています。
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よくある疑問
- ウミウシは何類? 何の仲間?(何科?)
- ウミウシは軟体動物で、巻貝(腹足類)のなかまです。殻が小さくなったり、なくなったりした海の巻貝をまとめた呼び名で、1つの科や目の名前ではありません。典型的なウミウシは裸鰓類(裸鰓目)で、アオウミウシはそのうちのイロウミウシ科、アオミノウミウシはアオミノウミウシ科です。このほか嚢舌類や側鰓類などにも、ウミウシと呼ばれるものがいます。
- ウミウシとアメフラシの違いは?
- アメフラシは、背中の皮ふの中にうすい板のような殻をもつ「無楯類」のなかまで、典型的なウミウシ(裸鰓類)とは別のグループです。裸鰓類の多くが動物を食べる肉食なのに対し、アメフラシのなかまはほとんどが海藻などを食べる草食です。ただし、アメフラシをウミウシにふくめることもあり、アメフラシを「ウミウシ」と呼ぶ地域もあります。
- ウミウシには毒があるの? さわっても大丈夫?
- 毒のある生き物を食べて、その毒を体にためている種が多くいます。アオミノウミウシのなかまは、食べたクラゲのなかまの毒針(刺胞)をためていて、素手でさわると刺されることがあります。オーストラリアでは、さわった人が刺される被害も報じられています。見つけても素手でさわらず、観察するだけにしましょう。
- ウミウシはなぜカラフル(派手)なの?
- 派手な色は、「食べるとまずい」と敵に知らせる警告の色(警戒色)だと考えられています。ただし反対の意見もあり、サンゴ礁などではまわりにまぎれる役に立つともいわれます。2026年の研究では、多くの色が、グアニンの小さな板が重なった構造が光をはね返す「構造色」でつくられていることがわかりました。
- ウミウシの寿命は? 何年生きる?
- 裸鰓類の寿命は、多くは数週間から1年ほどです(種によってちがいます)。アメフラシは1〜2年ほど生きます。飼育されたアオウミウシは、ふ化から6か月ほどでおとなになりました。
- ウミウシは日本のどこで見られる?
- 日本の近くの海には約1400種のウミウシがいるとされ、北海道から沖縄まで、各地の海にすんでいます。浅い所にすむ種も多く、潮だまりなどの磯で観察できるほか、スノーケリングやダイビングでも見つかります。アオウミウシは、北海道から九州にかけての沿岸の浅い所にすんでいます。
- ウミウシに脳はあるの?
- あります。アメフラシのなかまのジャンボアメフラシの神経系は、約2万個の神経細胞でできています。アメフラシの神経細胞は大きく、つながりも単純なので、記憶や学習のしくみを調べる研究に使われてきました。
ナゾロジーで読む21本
0 / 21
- 01 ゴマ粒のように小さな「新種ウミウシ」を発見、台湾
- 02 ウミウシの色彩は「構造色」だったと判明
- 03 記憶は注射できるのか? アメフラシが見せた衝撃
- 04 ウミウシが「盗んだ葉緑体」を使いこなせる秘密を解明!
- 05 【新発見】青い天使「アオミノウミウシ」は獲物狩りをする「悪魔の手」を持っていた!
- 06 「ひつじのショーンにそっくり!」SNSで話題の激かわ生物の正体とは?
- 07 種属不明だった深海生物、史上初の海中を漂う「深海ウミウシ」だったと判明!
- 08 【快挙!】海の宝石「アオウミウシ」を卵〜成体まで育てることに世界で初成功!
- 09 美しいのに毒を持つ「青い竜」 海水浴で注意すべき危険生物たち
- 10 実は水族館でも上手く飼えない?「海の宝石」ウミウシの不思議
- 11 光合成するウミウシのゲノムを解読、「盗んだ葉緑体」を維持する仕組みが明らかに
- 12 ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
- 13 まるでSFの世界。ウミウシ間で「記憶の移植」に成功
- 14 生物はどうやって「植物へ進化」したのか?葉緑体を盗み植物化する生物「ラパザ」
- 15 葉緑体をハムスターの細胞に移植成功!2日間光合成活性を維持
- 16 「ウミウシ?」「それはゴカイです」キモいゴカイが美しいウミウシに擬態する新種を発見
- 17 2021年の「最も驚いた動物ニュース」ベスト5!
- 18 一位は昭和レトロな生き物「再生能力をもつ生物TOP10」
- 19 線虫は「粒子」で記憶を他の個体に転送していたと明らかに
- 20 2020年の「マッドな生物実験」ベスト5
- 21 電脳ウミウシを薬物依存にするシミュレーションで、生物が”クスリ漬け”になる過程が明らかに
近いなかまの図鑑
同じ貝・カタツムリのなかま
参考文献
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表紙の写真: Diego Delso(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons
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