ウミウシは盗んだ葉緑体に光合成を行わせる秘密の方法がある
動物であるウミウシが植物の葉緑体を持っているという奇妙な現象(盗葉緑体現象)は1965年に日本人の川口四郎氏によってはじめて報告されました。
一部のウミウシはエサである藻類を消化する際に、葉緑体だけを無傷で取り出して保管することで、光を浴びて光合成する能力を獲得していたのです。
この一部のウミウシはエサ不足の環境におかれても、光を浴びて光合成を行うことで、生存に必要な栄養素を自力で作ることができました。
しかし近年の遺伝学の進歩により、葉緑体は単独で生存できず、光合成も植物本体(核ゲノム)の光合成遺伝子が必須であることがわかってきました。
葉緑体はかつて光合成能力を持つ独立した細菌でしたが、細胞内部に寄生するうちに生命としての自律性を失い、光エネルギーを化学エネルギーに変換する「ユニット」になってしまいました。
車のエンジンで例えるなら、熱エネルギーを運動エネルギーに変換するピストン部分とも言えるでしょう。
実際、藻類から無理矢理引き出した葉緑体が単独で光合成を行えるのは、わずか数日間に過ぎません。
しかし奇妙なことに、ウミウシの細胞内に取り込まれた葉緑体は、最長10カ月にわたって光合成を行うことが可能でした。
ウミウシを含む動物の細胞には植物のような葉緑体を支援する仕組み(光合成遺伝子)が存在しません。
再び車で例えるならば、ガソリン(光)はあるものの、他のエンジン部品(光合成遺伝子)なしに、ピストン(葉緑体)だけが延々と10カ月も動いているに等しい状態と言えます。
いったいどうしてこんな不思議な現象が起きているのでしょうか?