最有力説「植物から動物への光合成遺伝子の移動」は起きていなかった
なぜ動物であるウミウシが長期にわたって葉緑体を使って光合成ができるのか?
これまで、この疑問に答える最も有力な説は「種の壁を超えた遺伝子移動」でした。
つまり、ウミウシの遺伝子に植物の光合成遺伝子が含まれているとの説です。
種の壁を超えた遺伝子の移動(水平伝播)はウイルスなどを介して行われることが知られており、植物の体液を吸って生きているコナジラミなどの昆虫にも、植物の遺伝子が紛れ込んでいることが知られています。
このような偶然は、ウイルスが細胞に感染して遺伝子を複製する際に、誤って自分の遺伝子だけでなく、感染した細胞の遺伝子も一緒に複製してしまうことが原因で起こります。
さらにその誤った複製遺伝子が感染によってまた別の生物の細胞内に入り、伝播してしまうのです。
ただそのような奇跡が起こるのは非常にまれな上に、葉緑体を支援して光合成を行わせるために必須な光合成遺伝子は複数にのぼります。
一方で、問題となるウミウシの遺伝子についての研究は進んでいませんでした。
ウミウシから抽出されたDNAに植物の遺伝子が検出されたという研究結果もありましたが、試料の純度や検出手法が問題視されており、種を超えた光合成遺伝子たちの大移動が起きていたかは議論が続いていました。
そこで今回、日本の研究者たちは改めてウミウシの遺伝子を詳細に調べ、植物遺伝子の混入した形跡を探しました。
結果、意外な事実が判明します。
ウミウシの遺伝子には、葉緑体の動作に必要な光合成遺伝子が全く含まれていなかったのです。
ウミウシは光合成遺伝子なしに、どうやって葉緑体に光合成を行わせていたのでしょうか?