研究者も見たことない「謎の軟体動物」の正体とは?
MBARIの研究チームが本種の個体を初めて発見したのは、2000年の2月4日にまで遡ります。
米西部カリフォルニア州のモントレー湾の沖合を遠隔操作型の無人潜水機「ティブロン(Tiburon)」で探査していたところ、水深2614メートル付近を漂う透明のクラゲのような生物を発見したのです。
当時撮影された実際の画像がこちら。
一見するとクラゲのようですが、明らかにクラゲとは違うものでした。
この生物はリンゴ大のサイズであり、足のような付属肢を何本もぶら下げて、大きなフード型の器官を持っています。
また透明の皮膚を通して、バラ色の紅い臓器が外から目視できました。
チームはそれ以来、2021年に至るまで計157匹の同じ生物を目撃しています。
いずれも水深1000〜4000メートルの間の「ミッドナイトゾーン」と呼ばれる深海に生息していました。
研究者らはこの生物の種属がまったくわからなかったため、「謎の軟体動物(mystery mollusc)」というニックネームを付けています。
しかし正体不明である一方で、度重なる目撃例から数多くのサンプル標本を回収できており、充実した生態調査を行うことができました。
具体的には約50匹の「謎の軟体動物」を採集して、解剖やゲノム解析、摂食や繁殖、行動の詳細を調べています。
研究者いわく、新種と見られる深海生物をここまで詳しく調べられたのは初めてだという。
その結果、これは裸鰓類(らさいるい、Nudibranch)というグループに分類される新種新属の生物であることが特定されたのです。
裸鰓類は軟体動物の一群であり、ウミウシを代表的な種とします。
つまり、この生物はウミウシと同じ仲間なのですが、他の種とは違い、史上初の深海を自由遊泳するタイプのウミウシだったのです。