草を耳に挿すチンパンジー? 奇妙なトレンドが生じる
この研究の舞台となったのは、アフリカ南部のザンビアに位置する保護区です。
ここでは100頭以上のチンパンジーたちが複数のグループに分かれて暮らしています。
物語の始まりは2010年。
あるグループにいたメスのチンパンジー「ジュリー」が、なんの前触れもなく草を耳に挿すという不思議な行動を取り始めました。

草は耳からピョンと飛び出し、さながら「耳飾り」のように見えます。
もちろん、耳がかゆいわけでも、道具として使うわけでもありません。
それなのにこの行動は、ジュリーの周囲の仲間たちに次々とコピーされ、最終的にはジュリーを含めて8頭が草を耳に挿すようになりました。
しかもジュリーが死んだあとも、この風変わりな行動はグループ内に残り続けたのです。
今でもこのグループのいくつかの個体はこのファッションを続けています。
そして2023年、研究チームは10年越しの“第二波”に遭遇します。
今度は、別のグループのチンパンジーが再び草を耳に挿す行動を取り始めただけでなく、新たに肛門に草を挿して垂らすという派生行動まで生まれていたのです。
このグループはたった8頭の小規模な集団でしたが、観察が始まってわずか1週間で5頭が耳に、6頭が肛門に草を挿すようになっていました。
他の7グループ、計136頭では一切見られない行動です。

この「草ファッション」は果たして偶然なのか? それとも、誰かをマネして広まったのか?
研究チームはこの疑問を明らかにするため、「ネットワーク拡散分析(Network-Based Diffusion Analysis, NBDA)」という統計手法を使いました。
これは、ある行動がグループ内にどのように広まったかを、個体間の社会的つながりに基づいて解析するものです。
個体同士がどれくらい一緒にいるか、どれだけ近くで行動するかといった社会的な距離(ネットワーク)をもとに行動の伝播パターンを分析しました。