電気クラゲ「カツオノエボシ」とは何か?
まず、カツオノエボシの基本的な特徴についておさらいしておきましょう。
カツオノエボシは刺胞動物門ヒドロ虫綱に属する「群体生物」です。

見た目はジェリーフィッシュとして知られているクラゲのようですが、実はそれらとは異なります。
カツオノエボシは、複数のポリプ(個体)が役割分担しながら一つの生き物のように機能する集合体なのです。
例えば、浮袋を担う部分、捕食や防御を行う触手、消化を行う部位、繁殖を担う部分などが、それぞれ別のポリプに分かれています。
そして「電気クラゲ」という通称は、彼らが持つ強力な毒性に由来します。
カツオノエボシは触手に毒針を持ち、人間が刺されると激痛や麻痺、場合によっては命に関わることもあるほどの毒を放ちます。
この毒の性質が「電撃のような痛み」と形容されたことから、「電気クラゲ」という名で呼ばれるようになったと考えられています。

この生物は、太平洋、大西洋、インド洋に広く分布しており、海流や風を利用して浮袋を帆のように膨らませ、海面を漂うというユニークな移動方法をとります。
日本近海でも夏場になると打ち上げられることがあり、注意喚起が行われることもあります。
さて、そんなカツオノエボシが「1種類ではないかもしれない」という仮説が持ち上がったのは、長年の観察から「地域によって微妙に形が異なる」「同じ海にいても交雑していない」といった現象があったためです。
とはいえ、これまではその違いが単なる変異の範囲内と考えられてきました。
ところが今回、国際研究チームはこの疑問を科学的に明らかにすべく、世界中から集めた151体のカツオノエボシのゲノム解析を行いました。
同時に、市民科学プロジェクト「iNaturalist」に世界中のユーザーから投稿された4,000枚以上の写真を用いて形態の分類を行い、遺伝的な違いと形態の違いを照らし合わせました。