藻類から「光合成の力」を盗むウミウシ

レタスウミウシは、カリブ海などに生息する小さなウミウシで、その見た目から「海のレタス」とも呼ばれています。
このウミウシが食べるのは、主に緑藻類。
ところが、ただ藻を消化して栄養にするだけでは終わりません。
レタスウミウシは、藻類の中にある「葉緑体」を盗み出して、自らの細胞の中に取り込んでしまうのです。
葉緑体とは、植物や藻類が光合成をするために使う装置のようなもの。光を受けて、エネルギー(糖)を作り出すはたらきをします。
普通、葉緑体は植物の細胞の中でのみ機能し、動物の体内では生きられません。
それなのにレタスウミウシの体内では数カ月間(最大で9カ月!)も機能し続けるのです。
どうしてそんなことができるのでしょうか?
実は、葉緑体が働くには、それを制御するための化学情報(酵素)が必要です。
ふつうは藻類が持っている「核」が光合成を開始するのに必要な酵素を供給しているのですが、ウミウシは藻類の核は自らに取り込むことなく捨ててしまいます。
つまり、葉緑体だけ盗んで、そのまま使っているのです。
これまでは「なぜそれが可能なのか」がまったくわかっていませんでした。
盗んだ葉緑体が、なぜ核もなしに壊れず、動き続けているのか――そのメカニズムは、謎に包まれていたのです。