葉緑体を守る「クレプトソーム」の発見!
この謎を解き明かす鍵となったのが、「クレプトソーム(kleptosome)」という新たに発見された構造でした。
研究チームがウミウシの体内を詳しく調べたところ、葉緑体はただ細胞内を漂っているのではなく、小さな“袋”に収められていたことがわかりました。
この袋は、ウミウシ自身が作ったもので、盗んだ葉緑体を包み込み、守っていたのです。
研究者たちはこの構造に「クレプトソーム」と名づけました。“klepto”は「盗む」、「some」は「体」や「構造」を意味します。
クレプトソームの中では、葉緑体が生きたまま保存され、太陽光に当たることで光合成を続けていました。
まるで太陽電池を背中に背負っているようなものです。
この仕組みのおかげで、ウミウシは何日も、時には何週間も、何も食べずに生き延びることができるのです。
さらに驚くべきことに、チームは葉緑体の中から藻類由来のタンパク質だけでなく、ウミウシ由来のタンパク質も見つけました。
つまり、ウミウシ自身の体が葉緑体の生産を維持するためのサポートをしていたのです。
言いかえれば、「藻類の部品をただ借りるのではなく、自分の体に落とし込み、生理的に使いこなしている」ことを意味します。

食料が尽きると「葉緑体」が非常食に
しかし、この葉緑体利用システムにも限界があります。
レタスウミウシはふだん、緑色をしています。
これは葉緑体が背中にぎっしりと並んでいるためです。
ところが長く食べ物にありつけない状態が続くと、体の色がオレンジ色に変わっていくことが観察されました。
これはウミウシがクレプトソーム内の葉緑体を消化し、栄養源として使い始めているサインだったのです。
つまりウミウシは、光合成を利用するだけでなく、いざとなればその“太陽電池”を非常食として食べることまで考えていたのです。
クレプトソームは、ウミウシにとって“栄養の冷蔵庫”でもあるというわけです。
進化の世界では、ある種の生物が別の生物の能力を取り込んで利用するということが、何度も起きてきました。
私たちの細胞内にある「ミトコンドリア」も、もともとは別の生物だったと考えられています。
それが細胞に取り込まれ、エネルギーを作る工場として共生的に進化したとされているのです。
今回のウミウシの事例は、まさにそのような共生関係が“今まさに起きている版”だと研究者は話しています。
ミトコンドリアの次は葉緑体ですね。
緑色の肌を持つ人類を目指して。
ハルク、スマッシュ。