そもそも共鳴周波数とはいったい何なのか?
多くの人にとって「共鳴周波数」という言葉は聞き慣れたものでしょう。
音叉の振動が離れた場所にある別の音叉を共鳴させたり、オペラ歌手の声がワイングラスを割るといった映像を見たことがある人もいるかもしれません。
しかしなぜ共鳴周波数が物体の振動を引き起こしたり、破壊したりするか、その根本的な仕組みまで理解している人はあまりいないのではないでしょうか?
そこで「ヒト細胞の共鳴周波数」について紹介する前に、共鳴周波数の正体を簡単に解説したいと思います。
まず鍵となる知識として「どんな物体にもバネやブランコのような性質がある」ということがあげられます。
子供が乗っているブランコを押すとき、滅茶苦茶なタイミングで押してもブランコはどんどん失速してしまいます。
しかしブランコの揺れにあわせてタイミングよく押すと、ほんの僅かな力でも(指先だけでも)ブランコの揺れをどんどん大きくすることができます。
硬い鉄球も、高価な壺も、巨大なレンガ造りの建物でも、全ての物体には「固有の振動のしかた」が存在します。
人間でたとえれば、どんな堅物な人でも、つい体が動いてしまう好みのリズムがあるようなものです。
より専門的には、物体の内部には、多かれ少なかれ分子や原子同士の結合や相互作用(弾性力)があり、振動によって質量が動かされるたびに(慣性力がはたらくたびに)エネルギーのやり取りが生じる状態が発生します。
この物体内部の粒子質量の揺れ動き(慣性力)が、物体に隠されたみえないバネやブランコの正体となります。
ある意味で、共鳴周波数の正体は物体内部の粒子の慣性力に起因するとも言えるでしょう。
そのようなリズムは、たとえ力が小さくても、物体そのものの性質に刻み込まれているため、物体を簡単に揺れ動かすことができます。
そしてブランコの例のように、外部からの振動周波数がちょうど物体固有の振動モードと合っていると、エネルギーが効率的に蓄積され、振幅が雪だるま式に増幅されます。
言い換えれば、波のピークを逃さずにつかんで、次のピークへとさらに高く押し上げているようなイメージです。
これがいわゆる共鳴周波数による「増幅効果」の正体です。
より厳密には「共鳴周波数ではエネルギーが効率よく蓄積されるため、内部の原子や分子が協調して大きく動き、周囲を巻き込む形で弾性エネルギーが増幅される」という状態が起こります。
一方、固体に含まれる原子や分子は、結合のちぎれに抵抗する力を持っているものの、その限界を超えるほどの変位が繰り返し起これば亀裂が走り、ついには破壊されてしまいます。
「オペラ歌手が高音でワイングラスを割る」というエピソードも、ワイングラスにも、独特の形状や厚みなどから生まれる「固有の揺れやすい周波数」があり、そこへちょうど同じ周波数の音の波が何度もグラスを揺らすと、振動の振幅が際限なく大きくなり、ガラスの限界点を超えた瞬間にヒビが入って割れてしまうのです。
他にも軍隊が規則正しく橋の上を行進していたときに、軍隊の足踏みのリズムが運悪く橋の共鳴周波数と一致してしまうと、軍隊の重量が橋が十分に耐えられるものであっても、振動によって橋が崩壊してしまうこともあります。
実際、19世紀のイギリス・マンチェスターにあるBroughton Suspension Bridge(1831年)で、行進中の部隊が橋を渡る際に共鳴が起こり、崩壊したとされる有名な事例があります。
この事故をきっかけに「橋の上では行軍パレードを行ってはならず、兵士たちの足並みを崩すべき」というのは軍事関係者の間では常識となりました。
以上の事実は、鉄球からワイングラス、巨大な橋まで全ての物体は共鳴周波数を持っていることを示しています。
では生物は……そして細胞にも共鳴周波数は存在するのでしょうか?
結論から言えば、理論的には、細胞にも共鳴周波数は存在します。
ただ金属や硬質ガラスのように内部摩擦が少ない物質とは違い、細胞のように軟らかい(柔軟な)素材はエネルギーを散逸させやすいため、共鳴周波数を特定するのはかなり困難です。
また細胞1つ1つの重さは非常に軽く、人間の平均的な細胞の重さは数ナノグラムしかないため、振動を計測したり動きを観察するのは困難です。
それが生きている細胞となれば、さらに困難を極めることでしょう。
研究者たちはどのようにして、この問題を突破したのでしょうか?