極限の“死の環境”に生きるワーム、その秘密とは?
深海の熱水噴出口は、海底から高温で有害物質に富む流体が噴き出す、地球でも最も過酷な環境のひとつです。
そこには人間を含む多くの動物にとって致命的な毒物が大量に存在します。
たとえば、ヒ素(As)です。
ヒ素は、生物に対する毒性が強いことで有名であり、量によっては命を奪うことさえあります。
人においては急性中毒で、細胞のエネルギー産生が阻害され、嘔吐や下痢、心不全など様々なトラブルが起こります。
低濃度の暴露であってもそれが長期間にわたると、皮膚ガンや肺ガン、膀胱ガンのリスクが高まるのです。
日本では水道水中のヒ素基準が0.01mg/L以下と定められており、いかに微量でも危険であるかが分かります。
また、硫化水素(H₂S)も存在します。
これは「腐った卵の臭い」で知られる無色の気体で、高濃度だと強烈な毒となります。
人間であれば短時間で、呼吸不全、意識喪失、死に至ることがあります。
つまり、ヒ素も硫化水素もそれぞれ単独で致命的な猛毒であり、両方が存在する熱水噴出口はまさに「二重の死の領域」と言えます。

しかし、この環境に適応して暮らしているのが深海ワーム「Paralvinella hessleri」です。
体長は数センチほどで鮮やかな黄色の体色を持ち、西太平洋の深海の噴出口に群れを作ります。
研究チームの測定では、このワームの組織に体重の約1%以上のヒ素や硫化物が蓄積していました。
通常ならば確実に死を招く状態です。なぜこのワームは耐えられるのでしょうか。