目薬で老眼を治す――なぜ今、この方法が注目されるのか

年齢を重ねると、近くの文字がぼやけて見えにくくなりますが、これって少し不思議に感じませんか?
つい最近まで普通に見えていたスマートフォンの文字や本の小さな文字が、なぜ急に見えなくなるのか、不思議に思った人も多いでしょう。
この現象は「老眼」と呼ばれていますが、老眼というのは、人の目が年齢とともにピントを合わせる力を失うことによって起きる問題です。
若い頃は近くを見るときに目の中にある「水晶体」というレンズが柔軟に厚みを変えてピントを調節しています。
しかし、このレンズは年齢を重ねるとだんだんと硬くなり、思うように厚みを変えられなくなってしまいます。
その結果、近くのものにピントを合わせることが難しくなり、文字がぼやけてしまうのです。
多くの人が老眼になると老眼鏡を使うようになりますが、実際に老眼鏡を使ったことがある人ならよくわかるように、これは意外と面倒なものです。
まず、老眼鏡はいつも持ち歩かなければなりませんし、スマホを見るたびにバッグから取り出してかけたり外したりする手間もあります。
また、メガネを使うことに抵抗がある人もいますし、メガネをかけた自分の姿に抵抗感を抱く人も少なくありません。
一方で、老眼を根本的に解決する方法として、外科手術という選択肢もあります。
これは主に目の中のレンズ(水晶体)を人工のものに交換する手術ですが、確かに効果は高い反面、費用が高額になったり、手術そのものに一定のリスクが伴ったりするため、気軽に受けられるわけではありません。
特に中高年になると、持病や健康状態によっては手術が難しいというケースも珍しくありません。
そうなると、結局「メガネを使うのは嫌だけど、手術も受けられない」という人たちには、これまで有効な選択肢がほとんどなかったのです。
老眼というのは、実はそれほど簡単に解決できる問題ではありませんでした。
そこで最近、第三の道として注目され始めたのが、目薬(点眼薬)による新しい治療法の研究です。
点眼薬とは、目に直接薬を入れることで、目の働きを一時的に改善する方法です。
2021年には米国で老眼を改善するための処方点眼薬が初めて承認されるなど、この分野は非常に勢いよく進歩しています。
しかし、今回紹介する研究の目的は、単純に手術や老眼鏡を完全に置き換えることではありません。
むしろ、そうした従来の方法に加えて、もう一つ新しい「選択肢」を提供できないかという試みなのです。
具体的には、アルゼンチンの研究チームが開発した特殊な点眼薬を使い、「手術ほど大げさではないけれど、老眼鏡よりも便利で快適に生活できる方法」を探ろうとしたのです。
研究に使われた点眼薬は、ピロカルピンという瞳孔(目にある光を調節する穴)を小さくする薬と、ジクロフェナクという目の炎症を抑えて刺激や痛みを軽減する薬を組み合わせた特別なものです。
ピロカルピンは、カメラのレンズの絞りを狭めるようにして、ピントが合う範囲を広げる作用を持っています。
ジクロフェナクは、その際に起こりやすい目の不快感を抑える役割を果たします。
今回の研究で使用されたこの点眼薬は、もともとアルゼンチンの医師である故ホルヘ・ベノッツィ博士によって開発されました。
その薬を実際に患者さんたちに使ってもらい、本当に老眼の改善効果があるのかを確認したわけです。
果たして、そんな夢のような目薬は現実のものになるのでしょうか?